
動画配信を行う手段
社内・社外のどちらを対象に動画配信を行うにしても、動画をアップロードし、自分以外の人も閲覧可能にするためのプラットフォームが必要です。
プラットフォームとして代表的な形態は以下の3つです。
- 無料の動画配信サイトを利用する
- 法人向け動画配信システムを利用する
- 自社で動画配信システムを構築する
それぞれのメリット・デメリットを詳しく見てみましょう。
YouTubeなどの無料動画配信サイト等を利用する
- メリット:アプリケーションが広く浸透しており、手軽に始められる。
- デメリット:動画閲覧者を限定する場合、セキュリティ面に不安。
動画配信プラットフォームと聞いてまず誰の頭にも浮かぶのは、YouTubeではないでしょうか。
世界最大の動画共有サービスは世界に10億人以上のユーザーがおり、日本でもデバイスを問わずアプリも広く浸透しています。
そのほかにもニコニコ動画のような動画サイトをはじめ、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSも、動画をアップロードしてそのリンクを共有することで動画配信プラットフォームとすることができます。
実際に、「公式チャンネル」を設けてブランドの魅力や新製品の紹介を動画で行っている企業は業種を問わず多くあります。
たとえばYouTubeは、各動画の埋め込みコードを取得すれば自社サイトなどに動画を埋め込むことも可能で、動画を通して広くPRを行いたい場合は非常に効果的なプラットフォームです。
一方で、アクセスできる人間を限定する必要がある場合の動画プラットフォームとしては、不向きです。
その理由は、YouTubeはあくまで「動画共有サービス」であり、YouTube上にアップロードされた動画は、不特定多数の人が見ることを前提としているからです。
公開範囲の設定には「限定公開」があり、URLを知っている人のみが閲覧できる仕組みも備えてはいますが、そのURLが流出すれば誰でもアクセスが可能で、プラットフォーム上でセキュリティを担保することはできません。
公開範囲のコントロールが難しいという点では、YouTube以外の無料動画サイトやSNSも同じで、未発表の内容や公開前の情報を含む動画などを社内・社外と送受信する場合には、こうしたサイトの利用は避けるべきです。
またYouTubeには、課金者のみが閲覧できるという動画配信システムがないため、別のサイトで有料で販売した・する予定の動画なども、アップロードを避けるべき対象に含まれるでしょう。
法人向け動画配信システムを利用する
- メリット:Webデータなどとつなぎ合わせた効果測定などが可能。セキュアな環境。
- デメリット:無料動画サイトと比べて汎用性が低い。初期費用・運用コストがかかる。
企業が動画を使って社内外でコミュニケーションを行う場合に推奨されるのが、法人向けの動画配信システムです。
メリットの1つは、無料動画サイトにはない高いセキュリティが確保されていることでしょう。共有リンクだけではなく、IDとパスワードによるユーザーの振り分けやIPアドレスによる視聴制限など、プラットフォーム側にセキュリティを担保する仕組みが用意されています。
また、Webデータとリンクした動画の効果測定が可能な点も大きなメリットです。社内外を問わず、動画を配信するということは、視聴した人に何かしらのアクションを起こしてもらうことを目的としています。
たとえば、「動画視聴者にあるサイトを訪れてもらう」ことをゴールに設定した動画ならば、動画の再生数やクリック率だけでは、ゴールを達成できたのかどうかがわかりません。
すべてのサービスでできるわけではありませんが、法人向け動画配信システムは、動画の再生数やクリック率をWebのアクセスデータと比較分析し、アクセス数や購買率といったゴールにその動画がどの程度寄与したのかまで分析することが可能です。
動画単位で考えれば、YouTubeなどの無料動画サイトでも広範なデータを取得できますが、設定した目標に対してその動画がどの程度寄与しているかといった実効的なデータを取ることを検討しているのならば、企業向け動画配信プラットフォームに軍配が上がります。
ただし、こうしたサービスは多くの場合有料となっています。費用はサービスの提供企業によってさまざまなプランや料金体系が用意されていますので、必要とするサービスをまず確認して企業向け動画配信システムを選びましょう。
自社で動画配信システムを構築する
- メリット:独自のアプリケーションなどと組み合わせやすい。
- デメリット:維持管理を含めると最も大きなコスト。
自社で動画配信に必要なサーバを用意し、エンジニアが独自にインフラを構築したうえで動画を配信している企業もあります。
当然、インフラに詳しい専門エンジニアによる開発・維持管理が必要ですが、動画配信自体をビジネスとして大規模に行うならば、上記2つの選択肢よりも現実的です。
たとえば、「agora.io」はライブ配信やビデオ通話、音声通話をかんたんに実装できるSDKで、自社サービスのiOS・Androidアプリや既存のWebサイトでの動画配信が可能になります。
すでに特定のアプリやサイトがあり、それらを動画配信プラットフォーム化したい、というニーズには、自社独自のシステム構築が最も有効な手段といえます。
しかし、そのコストは3つの選択肢の中でも最も大きくなることも加味して検討する必要があります。
コスト |
メリット |
デメリット |
|
無料の動画配信サイトを利用する |
◎ |
アプリケーションが広く浸透しており、手軽に始められ、周知力が高い。 |
動画閲覧者を限定する場合、セキュリティ面に不安。 |
法人向け動画配信システムを利用する |
△ |
高いセキュリティとWebデータとつなぎ合わせた効果測定などが可能。 |
初期費用・運用コストがかかる。 |
自社で動画配信システムを構築する |
△ |
独自のアプリケーションなどを開発・組み合わせる際には最も有利。 |
維持管理を含めると最も大きなコスト。 |
動画配信プラットフォーム選定のポイント
ここからは、法人向け動画配信プラットフォームを選ぶ際のポイントについて解説します。
以下のすべての機能・サービスを実装しているものを選ぶというよりも、社内外のいずれに向けて配信するのかなど、自社が想定する動画配信にはどのような機能・サービスが必要かを照らし合わせる際の検討材料としてください。
配信方法:ライブかオンデマンドか
動画の配信方法には、大きく分けて二つの形態があります。一つは、録画した動画を配信するもの。もう一つは、リアルタイムで配信するライブ配信形式です。
録画による動画配信はオンデマンド配信とも呼ばれ、社内研修やセミナー、大学の授業などで有効に活用されている形態です。視聴者は好きな時間に動画にアクセスでき、早戻しや早送りなども自由に行えるため、自分のペースで視聴できるメリットがあります。
ライブ配信形式はテレビの「生放送」のような形式で、視聴者は配信側の様子を動画と音声でリアルタイムに視聴します。
設定や規模にもよりますが、配信側も視聴者側の様子をリアルタイムに見ることができ、質疑応答などの双方向通信も可能です。動画に加えて、チャットを通してテキストや資料を画面上で共有することもでき、さまざまなシーンで活用できます。
ライブ配信には対応しているプラットフォームとそうでないものがありますので、どちらの形式で配信をするか(あるいはどちらも)は、事前に想定をしておく必要があります。
視聴権限とログ(視聴履歴)管理
アクセスコントロールの必要性
社内向け・社外向けのいかんを問わず、動画配信に際して、動画にアクセスできる視聴者を管理・コントロールすることは、セキュリティの観点から非常に重要です。
特に、
- ユーザごとの細かい視聴制限が可能か
- どのような認証方法を利用しているか
- 閲覧を許可する管理者の承認は可能か
といった点を確認しておくべきでしょう。
たとえば、企業向け動画配信プラットフォームの一つである「Qumu」は、ユーザーの視聴アクセスを組織や役職などのグループ単位で設定することが可能になっています。
こうすることで、動画Aはグループ1とグループ2が視聴可能、動画Bはグループ2と個人1が可能、といったように細かく視聴対象者を設定できます。
視聴ログの管理
公開範囲のコントロール加えて、視聴ログを細かく記録・管理するできるかも重要な選定ポイントです。ログの解析は、設定した目標に対してその動画がどの程度寄与しているかといった実効的なデータを取る際に不可欠だからです。
社内向けの動画共有プラットフォームとしての運用ならば、IPアドレスやユーザー属性などはそもそも会社側が把握していれば分析は不要でしょう。むしろ、動画の視聴時間(最後まで視聴しているか否か)をはじめとする動画個々の分析が求められるかもしれません。
一方、社外向けの運用であれば、動画の再生数やクリック率だけでははなく、Webのアクセスデータと比較分析し、寄与率などまで解析する必要があります。
こうした解析度合いの深さ、どれほど詳細な解析が可能かは、各社のサービスにより差があります。
デバイスやOSの判別は基本的な項目ですが、IPアドレスやユーザーの属性などといった点まで含めた視聴レポート、さらには個々の動画の解析から動画ポータル全体での解析が可能か否かというのは、どの程度詳細な解析を必要としているかという点が選定ポイントになります。
稼働実績(安定性) ・料金形態
動画配信プラットフォームには、大量のアクセスがあった際にも安定して稼働することが求められます。社外とのやりとりを前提としている場合には、プラットフォームの安定性の重要度はさらに増すでしょう。
各社のサービスの安定性を単純に比較することは難しいですが、トラブル時の体制・対応方法などを事前に問い合わせるなどして確認しておくことをおすすめします。
上記のそれぞれのポイントを押さえた上で、実際の導入・運用コストと比較検討することが大切です。ただし、動画配信プラットフォームは料金形態もさまざまです。
料金形態は大きく「従量課金」と「定額課金」の二つに分かれます。従量課金は、ユーザー数に応じて課金されていくものが大半ですが、視聴時間や再生時間に応じた課金制度もあります。
スタートアップ企業や、ユーザー数や視聴者数の規模がはっきりと想定できない場合などには、導入しやすい料金形態です。
また、定額課金は各プランごとに月額・年額での定額でコストが発生するもので、社内向けの動画配信など、あらかじめ視聴者数がおおよそ把握できているケースでは、コストの見通しが立てやすい料金形態だと言えます。
ここでも、どのような動画配信の形を想定しているかによって、考慮すべき選定ポイントが変わってくると言えるでしょう。
おすすめ動画配信プラットフォーム
ここからは、企業や法人向けに動画配信プラットフォームを提供している各社のサービスを紹介します。末尾に特徴などの一覧表を設けていますので合わせて参照してください。
Qumu
株式会社ブイキューブが提供する「Qumu」の特徴は、「ビジネス動画を活用するための必要な機能が揃った動画配信サービス」であることです。操作性も直感的で分かりやすく、サムネイルなどから効率よく目的のビデオを探し、視聴できる動画ポータルサイトを簡単に構築でき、直観的な動画作成編集ツールも標準装備しています。
また、コメントやお気に入りのほか、「いいね!」などインタラクティブなコミュニケーションツールも搭載。セキュリティ面では、動画の視聴に権限設定が可能。営業、人事、サポートなどの部門ごとに視聴制限や作成権限などを設定することもできます。また、社内の認証サーバー(ActiveDirectory)と連携してユーザー認証を行うことも可能です。
milvi
出典:milvi
株式会社エビリーが提供する「milvi」は、倍速プレイヤーやスライド連動など、10種類以上のプレイヤーを備えており、スマートフォンはもちろんタブレットやPCなどマルチデバイスに対して再生端末を自動判別して最適な動画ファイルで配信するマルチビットレート配信が可能です。国内600社以上が導入しており実績も豊富な点も評価されています。
DOUPA
出典:DOUPA
インフォームシステム株式会社が提供する動画配信プラットフォーム。「DOUPA! ポータル」「DOUPA! ラーニング」「EC DOUPA!」の3シリーズがラインナップされており、中でも「DOUPA! ラーニング」は、資格取得スクールの通信講座や学習塾のオンライン講座、企業や組織内のキャリア開発研修プログラムなどで動画教材を配信する企業向けに最適化された「eラーニングサイト構築システム」として人気です。
Brightcove
出典:Brightcove
2008年に日本法人が設立された外資系プラットフォーム。マネタイズやエンタープライズに加えて、社内コミュニケーションを目的とした動画テクノロジーも提供しています。世界的な導入事例があり、生配信ができる「ライブストリーミング」機能も。IP制限、URLのトークン化、シングルサインオン(SSO)といったセキュリティ機能も提供しています。
Jストリーム
出典:Jストリーム
「Jストリーム」は株式会社Jストリームが提供する動画配信プラットフォーム。「国内オンライン動画配信システム市場シェアNo.1」を謳っており、導入事例が豊富です。3ステップの作業で動画配信がスタートでき、Webに不慣れな人でも使いやすい点が特徴。動画視聴解析ツールが利用でき、再生回数や視聴時間などを動画単位のほか、全動画計でも解析できます。
ULIZA
出典:ULIZA
株式会社PLAYが提供する「ULIZA」は、動画コンテンツ配信に加えて受託開発や運用代行なども含めた「プロフェッショナルサービス」も提供。動画配信に関わる各種サービスの導入から運用までをワンストップで受託・代行することで、動画ビジネスへの参入を迅速化できることを特徴に謳っています。
ソーシャルキャスト
出典:ソーシャルキャスト
株式会社アジャストが開発・販売する動画配信ツールが「ソーシャルキャスト」です。独自の動画販売プラットフォームを運営でき、月額見放題やセット販売、といったシステムを構築することも可能。アカウントやIPベースなどで動画の視聴やサイトへのアクセスを制限したうえで、動画の共有ができるため、視聴コードを発行したうえでの動画の限定公開もできます。プランごとに「基本性能」と「ストレージ」の月額費用が設定されています。
サービス名 |
料金形態 |
特徴 |
セキュリティ |
Qumu |
月額固定 |
操作性に優れた動画ポータルサイトを簡単に構築でき、直観的な動画作成編集ツールを標準装備。 |
アクセスコントロールを詳細に設定可能。社内の認証サーバーと連携したユーザー認証も。 |
milvi |
従量課金 |
10種類以上のプレイヤーがあり、マルチデバイスに対してマルチビットレート配信が可能。 |
暗号化ストリーミング配信、ドメイン・IP制限などが可能。 |
DOUPA |
月額固定 |
「ポータル」「ラーニング」「EC」の3シリーズがラインナップされており、目的別に動画配信システムが最適化されている。 |
「コンテンツパスワードロック」があり、コンテンツごとにパスワードを設定。 |
Brightcove |
月額固定 |
マネタイズ、エンタープライズ、社内コミュニケーションの3パターンにそれぞれ特化したプラットフォームを提供。 |
IP制限、URLのトークン化、シングルサインオン(SSO)などの機能。 |
Jストリーム |
月額固定 |
3ステップの作業で動画配信がスタートでき、Webに不慣れな人でも使いやすい。 |
IP制限のほか、暗号化配信機能も。 |
ULIZA |
要問い合わせ |
各種サービスの導入から運用までをパッケージ化し、ワンストップで受託・代行。 |
ホワイトリストによる配信ドメイン制限など、サービス要件に合わせた配信セキュリティを提供。 |
socialキャスト |
月額固定 |
動画の販売サイトを構築できるほか、店頭で視聴コードを販売するなど、オフラインでの動画販売も可能。 |
セッションチェックによる視聴制限を備えており、IPアドレスベースでの制限も可能。オプションでコピー防止機能も。 |
配信形態やターゲットのイメージを持って
企業向けの動画配信プラットフォームの選定ポイントは、2段階に分かれると言えるでしょう。始めに検討するのは、
- 無料の動画配信サイトを利用する
- 法人向け動画配信システムを利用する
- 自社で動画配信システムを構築する
のいずれか、ということ。
そのうえで、法人向け動画配信システムを選ぶ場合には、各社のサービスをセキュリティとコストも選定ポイントに加えながら選ぶ必要があります。
いずれの段階においても、社内向けか社外向けか、あるいはその両方か、といった点をはじめ、どのような形態で、どういった視聴者を想定しているのかという点を詳細にイメージしておけばおくほど、よりよいプラットフォーム選びにつながるでしょう。