AI時代の最強コミュニケーションとは?「言葉」と「イベント」が織りなす熱量の伝え方

AIが急速に普及する現代において、ビジネスにおけるコミュニケーションのあり方が問われています。

2025年12月17日に開催されたセミナー「AI時代の最強コミュニケーションとは?言葉(コトバ)vsイベント」では、出版・メディアのプロフェッショナルである松井謙介氏(株式会社ワン・パブリッシング)と、配信・データ活用の専門家である株式会社ブイキューブの花輪俊行、大友堅太郎を迎え、編集者である川戸崇央氏の進行のもと、これからの時代に求められる「伝える力」の本質について議論が交わされました。

登壇者の紹介と各社の取り組み

セミナーの冒頭では、各登壇者の自己紹介と、現在取り組んでいる事業の背景が語られました。

ワン・パブリッシング 取締役社長 松井謙介氏

ワン・パブリッシングは、2020年に学研プラス(当時)からカーブアウトして設立された、比較的新しい出版社です。事業の核は、学研プラスより承継した、歴史ある雑誌ブランド(『ムー』『GetNavi』『BOMB』など)。現在は、それらのブランドを活用しやWebやSNSのメディア運営や、企業のコンテンツ制作を支援する「コンテンツソリューション」に注力しています。

ブイキューブ One イベント 事業責任者 大友堅太郎

コロナ禍からイベント事業に携わり、現在は「One イベント」という事業開発を担当しています。「One イベント」を単なる配信代行ではなく、リブランディングの意味も込めて「イベントは最強のコミュニケーションである」と定義し、企業の成長エンジンとなるようなコミュニケーション設計を提案しています。

ブイキューブ CDO 花輪俊行

CDO(チーフ・データ・オフィサー)として、イベントを通じて得られるデータを活用し、新しい価値を創造する役割を担っています。

コロナ禍とテクノロジーが変えたビジネスコミュニケーションの境界線

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ワン・パブリッシング 取締役社長 松井謙介氏

最初のセッションでは、コロナ禍とテクノロジーの進化がビジネス現場に与えた影響について議論されました。

松井氏は、出版業界においても本作りの工程が劇的に変化したと指摘します。かつては紙の校正紙を机に並べて作業するアナログな手法が中心でしたが、コロナ禍を経て、出版ビジネスもオンラインで完結するスキームが構築された、と語ります。しかし、同時に「オンラインだけのコミュニケーションの限界もしみじみと感じている」と松井氏は述べます。隣にいれば数秒で済む確認が、チャットではどうしてもタイムラグが生じしてしまうという課題がある」と語りつつ、「また、チャットは『メッセージを送ったら、情報伝達が完了した』と思い込んでしますリスクもある」という指摘も。リアルのコミュニケーションの価値が、いま見直されているように感じると語られました。

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ブイキューブ One イベント ストラテジスト 大友堅太郎

これに対し、ブイキューブの大友は、変化の激しさを「蒸気機関車がいきなり新幹線になったような感じ」と表現しました。長年Web会議システムを普及させてきた立場として、コロナ禍によってテクノロジーが一気に加速し、世界がひっくり返ったような感覚を抱いていると強調しました。

シンガポールからオンラインで参加した花輪は、オンラインコミュニケーションの価値が相対的に下がっているという独自の視点を提示します。「オンラインが当たり前になったからこそ、リアルで会うことの重要性が増した」と花輪は述べ、今後は「AIやITを活用することで、リアルで会うよりも優れた体験が得られるようなオンラインの進化」に期待を寄せていると語りました。

企業に必要な「編集機能」と一次情報の価値

議論は、情報の洪水の中でいかに「一次情報」を扱い、社内のコンセンサスを取りつつ、外部の情報を発信していくべきかというテーマに移りました。

大友は、ネット上で加工されたデータが溢れる時代だからこそ、「お客様の悩みや葛藤、判断できない理由といった、生の声(一次情報)」をヒアリングすることが重要であると説明します。

これを受けて松井氏は、「企業の中に編集部を作りましょう」という大胆な提案を掲げました。人事部や営業部があるのに、なぜ情報を集約して発信する「編集部」がないのかという疑問を呈し、海外で注目されている「CNO(チーフ・ナラティブ・オフィサー)」という役割の重要性に触れました。広報部はあるが、それでは不十分。集めた社内情報をナラティブに編集し、発信する機能が今後重要になる」ーー松井氏はそう宣言しながら、主体的な語り(ナラティブ)を企業として発信していく機能の必要性を強調しました。

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左: 川戸崇央氏
右:ブイキューブ CDO 花輪俊行

花輪もこの意見に同意し、AIにナラティブを作らせる試行錯誤の中で、「空気感を含めた一次情報を知った上で、情報を組み合わせる力」においては、まだ人間とAIの間に大きな差があると感じていると述べました。

言葉(文章)vsイベント:AI時代の「書く」ことの意味

セッション後半では、松井氏の著書の内容をもとに、「生成AI時代だからこそ、身に付けておきたい文章術」について深掘りされました。

松井氏は「手軽に文章を生成できるAI時代だからこそ、自分で考えて書いた文章は大きな価値を持つ」と持論を展開します。特に重要なのはAIと人との「役割分担」という前提をもちながら、「自分の考え・気持ち・意見」を考えるのは人間の仕事、と語りました。

また、多くの人が「キーボードを前にすると頭が真っ白になる」理由として、「情報収集・分析・企画」という前工程を飛ばして、いきなり「執筆」に入ろうとしているからだと分析しました。「書きべき対象の情報を集めずに文章を書き始めるのは無理がある。情報収集・分析・企画・執筆のフローを学ぶことで、飛躍的に文章は書きやすくなるはず」と語ります。

一方で、大友はイベントの立場から、文章の重要性を認めつつも、さらに「実体験」の価値に言及しました。キーワードは「分かった気になってはいけない」というメッセージ。「頭で理解していることと、実際にイベントを経験した後の納得感は別物である」と大友は語り、体験を通じた感情の揺らぎが、AIには代替できない価値になると強調しました。

データの力でイベントを科学する

ブイキューブが提供する「Oneイベント」の強みとして、イベントの効果測定とPDCAの回し方についても紹介されました。

これまでのリアルイベントは「やりっぱなしのコスト」と見られがちでしたが、花輪はAIとデータテクノロジーを活用することで、参加者の反応を可視化できると説明します。

「オンラインやハイブリッドイベントにおいて、参加者がどの話でうなずき、どのようなリアクションをしたかを秒単位で分析できるのはOne イベントの特徴」と語りました。

これは、ちょうどMR(医薬情報担当者)と医師の関係のようなもの。MRとは、医療現場からの情報を収集し、医薬品の適正使用と新薬開発に貢献する専門職のこと。「イベントをデータ化し、次のイベントをさらに価値あるものにすることができる」と花輪は展望を語りました。

質疑応答

セミナーの終盤では、視聴者からの質問に対して具体的なアドバイスが送られました。

質問1:書籍出版とイベントのセットで、売り上げが伸びた成功例はありますか?

松井氏:「これはもはや普通のことです。今の時代、出版とイベントは切っても切り離せない関係と言えます。タレントのライフスタイルブックなどで、お渡し会やポラロイド撮影などのリアルな接点を作ると、売り上げは天と地の差になります。大事なのは、著者と参加者の双方向コミュニケーションを創造することです」

質問2:個人で文章力を磨くには、どのようなスタートを切るのが良いでしょうか?

松井氏:「これは難しい問題で、一般的には、会社に文章を教えてくれる先輩はいません。しかし文章力を磨くには、『書いて、添削してもらい、また書く』、これしかありません。解決策としては、何らかの文章作成コミュニティに入ったり、研修や講座を活用したりして、とにかく実地訓練を繰り返すしかないと思います」

質問3:社内に編集部を作る場合、どのような人材を配置すべきですか?

松井氏:「今は雑誌やWebメディアの編集者が厳しい状況に置かれています。そうしたフリーランスの編集者にアプローチするのが一つの手です。弊社の場合は、企業向けの編集部として、例えば週3回ほどミーティングを重ねて企業のことを深く理解しながらコンテンツ制作を代行する形をとっています」

まとめ

最後に、登壇者から総括のメッセージが贈られました。

大友は「イベントと編集の共通点」を感じたと述べ、「今後はイベントの『コミュニケーションの役割が拡大するはず』」と期待を込めました。「データ化により、イベントはさらに有効性を増し、企業を一つにまとめるコンテンツとして有効活用してほしい」と語ります。

松井氏は、「文章でもイベントでも、根本にあるのは相手を思う気持ち。相手といかに『良好なコミュニケーション』を取り、情報をしっかりと伝えるか、ということです。そこで最も大事なのは『熱さ(思い・熱量)』である」と強調しました。「AIによって色々なことが効率化することは大歓迎。だが、その核となる『自分のハート』しかありません。伝えたいことがないのに、文章を書いたり、イベントをやっても意味がないと思います!」と締めくくりました。

花輪は、CDO(チーフ・データ・オフィサー)の視点から、編集という営みを「極めて実直なビジネススキルそのもの」であると定義しました 。 AIに作業を代替させることは可能ですが、そこに「何を、何のために、どのような熱量で指示するか」という膨大な文脈を理解した上での選択は、人間にしかできない領域であると強調します 。 「イベントを通じて得られる微細な感情や反応といったデータ(一次情報)を解釈し、次のアクションへとつなげる『編集的視点』こそが、AI時代のビジネスを加速させる鍵になる」と述べ、テクノロジーと人間の意思決定が融合する未来への期待を語りました 。

AI時代のコミュニケーションは、テクノロジーによる効率化と、人間にしか生み出せない「熱量」と「編集力」をいかに融合させるかが鍵となることが示され、セミナーは幕を閉じました。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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