対象事業主が拡大した女性活躍推進法を解説!行動計画の策定や事例、助成金まで

2013年4月の「成長戦略スピーチ」の中で、安倍晋三首相は「現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは、『女性』です」と述べました。

また同年9月の国連総会一般討論演説でも、「ではいかにして、日本は成長を図るのか。ここで、成長の要因となり、成果ともなるのが、改めていうまでもなく、女性の力の活用にほかなりません」と述べており、女性の活躍をわが国の成長戦略の中核に位置づけています。

これ以降、日本国内では大企業を中心に女性活躍の取組が加速しており、中小企業も女性の活躍推進に追従しています。

本稿では、改正案が可決されたことによって対象事業主が拡大した女性活躍推進法を解説、中小企業が取り組むべき行動計画の策定方法や実際の事例、助成金についても取り上げます。

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女性活躍政策の歴史

女性活躍政策の歴史は、男女雇用機会均等法が施行された1986年をスタートと見ることができます。同法では男女の均等な機会および待遇の確保を図り、なおかつ女性労働者が母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることを基本理念としています。

90年代には育児介護休業法やエンゼルプラン、2000年代には次世代育成支援対策推進法や待機児童ゼロ作戦といった女性活躍政策が掲げられ、女性の機会均等に加え、仕事と家庭の両立支援、子育て支援へと拡大していきます。

その中で、2016年には働き方改革が最大の焦点となり、女性活躍推進法が施行されました。

女性活躍推進法とは

女性活躍推進法とは、女性の職業生活における活躍を推進する法律で、企業に対して女性活躍推進の取組を実施してもらうことを目的としています。企業が行うべき女性活躍推進の取組とは、次のとおりです。

  1. 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析

  2. その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表

  3. 自社の女性の活躍に関する情報の公表

2019年5月29日に衆議院本会議で可決、成立した改正女性活躍推進法では、上記の取組を行った上で、一般事業主行動計画の策定と届出・外部への公表が義務付けられており、対象となる事業所は301人以上から101人以上に拡大されています。

出典:内閣府 - 女性活躍推進法 見える化サイト

女性活躍を推進する背景

なぜ女性活躍推進法のように働く女性を支援する法律が必要なのか。日本における働く女性の現状から紐解いてみましょう。

わが国の生産年齢人口における女性の就業率は上昇していますが、就職を希望しながら働いていない就業希望者の女性は2018年時点で237万人存在しています。

就業希望の有無、年齢階級別非労働力人口の内訳(2018年)

出典:労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)平均(速報)

さらに、第1子出産後の女性の出産退職率は46.9%、女性雇用者における非正規雇用者の割合は56.0%、課長職以上の女性管理職比率は2017年で10.9%と、いずれも国際的に見て低いといったデータがあります。

出産前有識者に係る第1子出産前後での就業状況

出典:「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について

就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)

出典:「2020年30%」の目標の実現に向けて

以上のデータからも、わが国ではまだまだ職場での女性の力が十分に発揮されていない現状が伺えます。

一方で、少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少により、労働力の確保は急務です。企業は女性社員が能力を高めつつ、継続就業できる職場環境を構築していく必要があります。

2019年から義務対象の事業主が拡大

2019年5月29日に衆議院本会議で改正女性活躍推進法が可決しました。新法では女性活躍推進の取組1~3を行ったうえで、一般事業主行動計画の策定と届出・外部への公表が義務付けられており、対象となる事業所の労働者数は、現行法の301人以上から101人以上に拡大されています。

さらに、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、情報公表項目について、以下の2つの区分から1項目以上を公表しなければなりません。

①職業生活に関する機会の提供に関する実績

②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績

改正女性活躍推進法によって義務対象が拡大したことで、新たに対応を迫られる企業が出ることになるでしょう。

出典:厚生労働省 - 女性活躍推進法特集ページ

行動計画の策定から取組までの流れ

女性活躍推進法における企業の行動計画の策定から、取組までの流れを解説していきます。

ステップ1:自社の女性の活躍に関する状況の把握、課題分析

最初のステップとして、自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析を実施します。課題を分析するにあたっては、次表の事業主が必ず把握すべき項目の「基礎項目」をチェックします。

続いて事業主にとって課題であると判断された項目については、必要に応じて把握する項目の「選択項目」を活用し、原因の分析を深めます。

基礎項目

選択項目(一部)

①採用した労働者に占める女性労働者の割合
②男女の平均継続勤務年数の差異
③労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④管理職に占める女性労働者の割合

・男女別の採用における競争倍率
・男女別の配置の状況
・男女別の育児休業取得率及び平均取得期間
・男女別の1つ上位の職階へ昇進した労働者の割合
・セクハラ等に関する各種相談窓口への相談状況
・男女の賃金の差異

ステップ2:行動計画の策定、社内周知、公表

ステップ1の自社の状況把握・課題分析の結果をもとに、目標達成のための行動計画を策定します。行動計画の中には、次表の項目を盛り込みましょう。

①計画期間

各事業主の状況に応じて2~5ヶ年計画で進捗を検証しながら取組を実施します。

②目標設定

最も大きな課題と考えられるものから優先的に数値目標を設定します。目標には「~人」「~%」など具体的な数値を定めましょう。

<数値目標の例>

採用者に占める女性の比率を○%以上とする

管理職に占める女性の人数を○人以上とする

③取組内容・取組の実施時期

②で設定した目標を達成するための具体的な取組内容、実施時期を検討します。

取りまとめた行動計画は社内の労働者に周知し、外部へも公表しましょう。

ステップ3:行動計画を策定した旨の届出

行動計画を策定したら、その旨を都道府県労働局へ届け出ます。郵送、持参のほか、電子申請も可能です。また届出には、必要記載事項が定められています。詳しくは厚生労働省作成のパンフレット「一般事業主行動計画を策定しましょう!!」をご確認ください。

ステップ4:取組の実施、効果の測定

取組を開始したら、定期的に数値目標の達成状況や行動計画に基づく取組の進捗を点検・評価します。その結果をもとにステップ1に戻って課題分析を行い、その後の取組や行動計画に反映させていきましょう。

行動計画の策定例

行動計画の策定例は、厚生労働省作成のパンフレット「一般事業主行動計画を策定しましょう!!」の中に掲載されています。同じく各ステップの詳細な解説も掲載されていますので、対象となる事業主の方は一度パンフレットのご確認をおすすめします。

参考:厚生労働省 - 一般事業主行動計画を 策定しましょう!!

「女性の活躍推進企業データベース」の利用

「行動計画の策定から取組までの流れ」のステップ2で外部に公表する行動計画や取組の進捗等の掲載先は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」がそのひとつです。

自社の取組状況を掲載することで、消費者、投資家に対するイメージアップにつなげられるほか、採用活動時のアピールポイントにもなり、応募増加や優秀な人材の採用にもつなげられます。

女性活躍推進の事例

女性活躍推進に取り組む企業の事例をいくつかご紹介します。

株式会社サイバード

株式会社サイバード

同社は経験を積んだ社員が結婚・出産を経ても働き続けられる環境にすることで、会社の成長力を高めたいと考え、女性活躍推進に取り組みました。会社の規模は現行法に定める行動計画の対象ではなかったものの、会社にとってプラスになると考え実施に踏み切りました。主に取り組んだのは2点です。

1. 在宅勤務制度の適用範囲の拡大を検討し、育児や介護などと仕事の両立を目指す
2. 多様な人材活用のため働き方についてのヒアリングを行った上で、フレックスタイム制や裁量労働制を社内に浸透させる

その結果、女性が活躍できる会社であることをアピールできるようになったため、応募者の安心感につながっています。在宅勤務の適用拡大を行ったため、女性社員から人事に対して、産休や育休に関する問い合わせや相談が増え、長く働こうとする意識が高まっているようです。

出典:厚生労働省 - 女性活躍推進の好事例集

株式会社デンソー

株式会社デンソー

同社では「キャリア形成」と「仕事と生活の両立」の視点からさまざまな施策を行っています

「キャリア形成」では、女性の活躍推進を見据えて、新卒の比率を事務系40%、技術系15%で採用する、異業種からの女性社員の採用数を増やしています。

「仕事と生活の両立」では、充実した育児休暇制度や短時間勤務制度、テレワークや在宅勤務制度を導入し、働く場所や時間の柔軟性を高め、女性活躍の場を広げています。

出典:愛知県 - あいち女性の活躍促進応援サイト

カルビー株式会社

カルビー株式会社

なでしこ銘柄に4年連続で選定され、女性の活躍推進を優先課題に、社内の意識改革を実施しています。男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰など多年にわたり男女共同参画社会に向けた実践的な活動が表彰されています。

現在は、豊富なマネジメント経験を持つ執行役員(メンター)による「メンター制度」の実施により女性管理職の成長支援につなげているそうです。女性管理職の比率では、2018年に26.4%となり、2020年には30%を目指しています。新規管理職登用に占める女性比率の推移では、2011年の12.5%から2017年では36.0%と大幅に伸びています。

また、同社では、2014年の4月より在宅勤務制度の本格導入を実施し、ワーク・ライフ・バランスの向上など育児中の女性に優しいテレワークを実現しています。取組後は、「育児期間中の従業員が子どもの送り迎えをし やすくなった」「通勤時間を削減でき時間にゆとりがで きた」「通勤ラッシュを回避できるようになった」という声も上がっています。

出典:カルビー株式会社 - CSR活動

まとめ

女性が活躍する社会を目指す中で、企業も女性が活躍する職場づくりを実施することで、優秀な人材の継続就業率を高め、就職希望者へのアピール材料となるなど、大きなメリットが得られます。

まずは女性活躍推進法に則って行動計画を策定し、現状の職場環境を見直すところから始めてみましょう。

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山田 陽一
著者情報山田 陽一

デザイン制作会社、広告代理店、フリーランスを経てブイキューブへ入社。社会の働き方の変化を実感し、ブイキューブの活動に共感。ブイキューブサービスを世の中に広く伝えるため、マーケティング プロモーション周りのディレクション・デザインを担当。

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