在宅勤務とは? 働き方改革関連法案施行で増える新しい働き方
残業時間の上限規制など、働き方改革関連法案が順次施行され始め、それにともなって働き方改革に対する関心もさらに高まりを見せつつある現在。働き方改革の方法の1つとして注目されるのが、「在宅勤務」です。最近では、東京五輪・パラリンピックに向けて、東京都が職員の在宅勤務に集中的に取り組むといったニュースも目にし、2019年7月22日にもテレワーク・デイズが控えています。
この記事では、テレワークに含まれる在宅勤務が注目される背景から、在宅勤務のメリット・デメリット、さらに導入手順までを紹介していきます。
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そもそも在宅勤務とは?
在宅勤務は、「テレワーク」の1つのかたちです。そもそもテレワークとは、日本テレワーク協会によると「ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されています。
一般的には同様の意味で扱われることが多い、テレワークと在宅勤務。ここでは在宅勤務についてさらに理解しやすいように、テレワークの区別を改めておさらいしていきます。
田澤 由利氏著の「在宅勤務が会社を救う」によると、会社員としてテレワークを実施する場合を「雇用型」テレワーク、個人事業主などの自営としてテレワークを実施する場合を「自営型」テレワークと区別しています。
(画像引用元:在宅勤務が会社を救う)
さらに自宅以外のカフェやコワーキングスペースなどを利用してテレワークを実施する場合を「モバイル型」テレワーク、自宅で子育てや介護をする必要があるなど、在宅でテレワークを実施する場合を「在宅型」テレワークと呼びます。
ここまでを踏まえるとテレワークは大きく、雇用型と自営型に分かれ、さらにモバイル型(主に自宅以外で働く)と在宅型(主に自宅で働く)に区別されます。
(参照元:在宅勤務が会社を救う)
この区別で考えると、在宅勤務とは主に、企業に何らかのかたちで属しながら自宅で勤務する方法といえます。
在宅勤務が注目される背景とは?
先ほど紹介した「在宅勤務が会社を救う」のなかで、在宅勤務が注目される背景として、以下の3つが挙げられています。
国が導入を後押し
国が在宅勤務を含む「テレワーク」の普及に本腰を入れていることが、まず背景の1つとしてあります。とくに「アベノミクス」の成長戦略のなかにテレワークという言葉が組み込まれたことで、その認知度は広がっていったといえます。
もちろん言葉として組み込まれただけでなく、例えば「時間外労働等助成金(テレワークコース)」など、助成金による具体的な支援もスタートしています。
女性の継続雇用
少子高齢化にともなう現役世代(20代〜60代)の比率の低下で、今後はますます働き手が不足していくなかで、育児と両立しながらでも女性が活躍できる環境を整備する必要性があるというのも、背景の1つです。
子育てと両立しやすい在宅勤務の導入は、企業においても今後人材の確保がままならなく状況を打開するための有効な手段なのです。
ICT環境の発達
最後3つ目は、在宅勤務を可能とするテレビ会議システムなどのツールの普及、またそういったツールをこれまでよりも低コストで利用できるなど、ICT環境が発達してきたことも背景の1つです。
これまでは大手企業を中心に取り組みが進んでいた在宅勤務ですが、現在では中小企業においてもICTツールを導入するハードルが下がってきたため、在宅勤務も取り入れやすい環境は今後ますます整っていくことでしょう。
在宅勤務のメリットとデメリット
続いて以下では在宅勤務のメリットとデメリットについて、それぞれ紹介していきます。
在宅勤務のメリット
戦力の低下を防げる
前述した通り、今後は現役世代の人口が減っていきます。新たに優秀な人材を確保し、育てるということはますます厳しくなることが予想されるでしょう。そんななかで、従業員の出社を必須とし、柔軟な働き方を認めないのであれば、せっかく戦力して育った女性社員なども出産を機に辞めざるをえません。
こういった状況が続けば、企業はますます戦力の低下が加速することでしょう。そこで在宅勤務をはじめとした柔軟な働き方を導入し、出産などでも辞めなくて済むような環境へと整える必要があるのです。
ストレスからの解放で社員の生産性向上が期待できる
オフィスへの出社義務は、行き帰りの通勤、上司の目を気にして帰りたい時間に帰れないなど、何かとストレスが生まれるものです。
一方で在宅勤務であれば、通勤に費やしていた時間をプライベートに充てられますし、帰るタイミングなども周りの目を気にする必要はありません。従業員のストレスが軽減することで、生産性の向上も期待できます。
コストの削減につながる
毎月発生する賃料などのオフィスコストは、一度削減すれば、その後長期的にコスト削減の効果を実感できます。とくに在宅勤務の導入により、オフィスに出社する従業員の数が減少すれば、より賃料の安いオフィスへと引っ越しすることで、面積の削減につながります。
テレワーク可能な部門の一部を、賃料の安い郊外や地方へと移すことも、賃料の削減につながるでしょう。
賃料だけでなく、在宅勤務の導入によりオフィスに出社する従業員が減少すれば、その分照明や空調使用時間の削減などにつながります。テレワークの導入で、オフィスの電力消費量が1人当たり43%も削減可能というデータもあるようです。
そのほかこれまで当たり前に払っていた通勤手当についても、完全に在宅勤務となれば支払う必要はなくなります。
災害時も業務を継続できる
東日本大震災をきっかけに、在宅勤務の必要性を感じ始めた企業も多いことでしょう。こういった予期せぬ自然災害が発生したときでも、在宅勤務であれば無理して出社することなく、業務を継続させることができます。
在宅勤務のデメリット
コミュニケーションの気薄化
在宅勤務では、会社でいる場合と比較すると従業員同士のコミュニケーションが不足する恐れがあります。対策としては、会社でカフェ代などを支給し、上司との個別面談を頻繁に実施する、またはランチ代などを支給し、メンバー同士で実際に会うなどの機会を設けるのも有効でしょう。
また電話やWeb会議システムを使うほどでもないけど、上司に確認したいことであったり、伝える必要があったりなど、在宅勤務ではちょっと声をかけるといったことが難しくなります。そういった問題への対策としては、「チャットワーク」や「Slack」などのチャットツールも利用することも、有効な方法の1つです。
(画像引用元:チャットワーク)
(画像引用元:Slack)
緊張感が薄れる
会社では上司や同僚の目があるために緊張感を感じる結果、仕事に集中できていたが、在宅となると緊張感が薄れるために、集中力が持続しないといった方もなかにはいるでしょう。
会社にいるときと同様に集中力を維持するためには、本人の裁量に委ねられる部分はあるものの、企業側ができる対策としてはウェブカメラと常時つないでおくなどの方法が考えられます。
また前述しましたが、定期的にチャットツールなどの利用してコミュニケーションの頻度を多くするなども、有効といえるでしょう。
従業員の管理・評価がしづらい
在宅勤務となると従業員を目で見る機会が減るため、管理や評価がしづらいといった課題も出てくるかもしれません。
まず労働時間の管理としては、クラウド型の勤怠管理システムの導入が挙げられるでしょう。具体的なツールとしては、マネーフォワードの「クラウド勤怠」や「ジョブカン」などがあります。
(画像引用元:クラウド勤怠)
(画像引用元:ジョブカン)
また評価制度についても「みなし労働で成果主義にする」などの方法であれば、「日々のがんばり」や「働いている様子」など、上司のさじ加減によるあいまいな評価を防ぐこともできます。
在宅勤務の導入のステップ
では、在宅勤務はどういった手順で導入していくのか。以下では「在宅勤務が会社を救う」のなかで紹介されている方法を解説していきます。ただし必ずしも全企業に当てはまる方法ではないため、自社の体制や人員リソースに合わせて、柔軟にカスタマイズしていく必要があるでしょう。
ステップ1:体制の構築
まずは社内で、在宅勤務を推進するための体制を構築していきましょう。全従業員に浸透させるためには人事部などの一部門のみで体制を構築するのではなく、各部門の従業員から構成される「プロジェクトチーム」を作ることが有効です。
これは、社員数の少ない中小企業においても同様。仮に1人しかプロジェクトの人員として割けない場合であっても、全部門の業務にある程度精通している人を選びましょう。
ステップ2:導入目的と手順の明確化
プロジェクトチームを作ったら、在宅勤務を導入する目的と、導入に至るまでの手順を明確化し、メンバー全員で共有しましょう。事前に目的が明確化されることで、プロジェクトメンバー以外の従業員に在宅勤務の意義を伝える際にも、浸透しやすくなるでしょう。
ステップ3:導入計画を策定する
導入計画として定める内容は、以下の主に7つとなります。
- 導入目標
- 導入スケジュール
- 実施内容
- 実施対象
- 利用システム
- 制度と運用ルール
- トライアルの実施
これらの内容を、プロジェクトチームのメンバー同士で話し合いながら考えていきます。
ステップ4:現在の業務の整理
在宅勤務の導入にあたっては、まずは現状の業務を整理したうえで、在宅でもできる業務を考えていく必要があります。これは部門単位、また個人単位でも必要となる作業。
整理においては業務のリスト化のほか、業務に必要な道具(ツール)や資料、セキュリティレベルなどを改めて洗い出してみることをオススメします。
ただし現時点での会社でできる業務と在宅でできる業務との区別は、絶対ではありません。現状は会社でしかできないと考えている仕事も、実際に在宅勤務を実施してみると、自宅でもできる可能性はあります。
また紙での運用が中心となっている場合は、資料をスキャンしてpdf化することで、在宅でも資料を閲覧しやすくするといった工夫も必要となってきます。
ステップ5:ツールを選ぶ
前述したWeb会議システムなど、在宅勤務を実施するためにはツールなども必要となってくるでしょう。必要なツールとしては以下で紹介する主に4つが考えられます。
セキュリティを守るツール
在宅勤務は、セキュリティの面で不安といった声も聞きます。そこでデータを物理的に持ち出さなくても、仕事ができるシステムの導入を検討する必要もあるでしょう。
例えば、社外から社内にある自分のパソコンにアクセスできる「AnyDesk」などの「リモートデスクトップ」や、クラウド上にある仮想のパソコンを、自分の手元にあるパソコンで操作して仕事を行う「仮想デスクトップ」などがあります。
(画像引用元:AnyDesk)
コミュニケーションを円滑にするツール
コミュニケーションは、テキストと対面の主に2パターンがあります。テキストであれば前述した「チャットワーク」や「Slack」などのチャットツール、対面であれば弊社が提供する「V-CUBE ミーティング」などのWeb会議システムがあります。
情報共有ツール
とくにチームで実施する業務においては、在宅勤務であっても情報を共有することが重要となります。紙の資料をデジタル化して、社内ネットワーク内にある共有サーバーに保存する、また「Dropbox」などのオンラインストレージサービスを利用してクラウド上で情報を共有するなどの方法があります。
(画像引用元:Dropbox)
社員管理ツール
労働時間の把握など、社員の勤怠を管理するためのツールとしては、前述したように「クラウド勤怠」や「ジョブカン」などがあります。
ステップ6:就業規則の見直しや社内ルールの設定
在宅勤務の導入にあたっては、労働時間の変更や賃金制度の改訂など、就業規則を見直す必要も出てくるでしょう。就業規則に、「在宅勤務規定」を別途追加する必要もあります。
また就業規則だけでなく、社内における在宅勤務の運用ルールなども設定しましょう。在宅勤務を導入する目的や心構え、申請方法や在宅勤務時の仕事の進め方などを整理したうえでマニュアル化し、事前に従業員に共有したいところです。
ステップ7:従業員への研修
在宅勤務の目的やルールなどが定まったら、在宅勤務を実施するにあたって、従業員への説明機会として研修を設けましょう。在宅勤務によって会社ならびに従業員にどういったメリットがあるかなどを事前に共有しておくことで、制度自体の浸透を促すことができます。
ステップ8:トライアルを実施
ここまで設定した計画をもとに、プロジェクトメンバーや管理職層を対象として、在宅勤務をトライアル的に実施しましょう。そのなかで改善案も出てくるでしょうから、それをさらに在宅勤務の計画に反映したうえで、トライアル期間のなかで計画→行動→改善といったプロセスを踏んでいきます。
在宅勤務は福利厚生でもあり企業戦略でもある
在宅勤務は従業員にとって、介護や育児などのやむをえない事情で会社で働くことが難しくなった場合の、福利厚生としての役割があります。
一方で今後は、働き手となる現役世代の比率が低下し、人手不足によって労働力の低下がさらに深刻化する恐れがあります。そのような状況において在宅勤務は、「働きたくても働けない」状況にある優秀な人に能力を発揮してもらうことで戦力の低下が防げる、「企業戦略」でもあるのです。
在宅勤務の導入の有無が、今後はますます企業が生き残るための鍵を握るのではないでしょうか。