企業が女性管理職を増やすべき理由とは?

近年は、国が奨励する「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が30%になることを期待する」というポジティブ・アクションのもと、女性管理職の登用に熱心に取り組む企業が増えています。しかし、女性活用には賛同しても、数値目標が先にくることに対して懸念の声もあります。

実際、企業にとって女性管理職を増やすメリットはどこにあるのでしょうか? また、女性管理職登用は生産性向上にどのようなプラスの面があるでしょうか? 本記事では、女性管理職を増やすべき理由について解説します。

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女性管理職と男性管理職の現状

日本では男女雇用機会均等法以降、女性があらゆる分野に進出しています。企業の第一線はもちろん、メディアには宇宙飛行士、政治家、弁護士、経営者なども登場しており、日本だけの経緯を振り返れば女性は目覚ましく活躍するようになったと言っても過言ではないでしょう。

しかし、企業内の女性管理職となると、いまだに女性の割合は低い状況にあります。

女性管理職は諸外国より少ない

国際労働機関(ILO)が2019年3月に発表した報告書によると、2018年時点の世界の女性管理職比率の平均は27.1%です。しかし、日本は12%であり主要7カ国中で最下位です。日本だけの歴史を振り返れば着実に女性管理職の比率は向上しているのですが諸外国と比べるとまだ低い水準です。

内閣府が公表している各国女性管理職比率のデータでも、上場企業の役員の比率が諸外国より低い水準であることが指摘されています。

女性管理職を増やすNo.1   上場企業の女性役員数の推移・諸外国の女性役員比率

同サイトの過去データ(青:2011年、黄色:2015年)と照らし合わせると、日本はちょうど7~8年前の欧米諸国の女性管理職比率に追いついてきた状況だと言えるでしょう。

女性管理職を増やすNo.2 2011と2015年の諸外国の女性役員割合

出典:内閣府

また、世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表している「世界男女格差年次報告書(Global Gender Gap Report)2018年版」においては、日本は149カ国中110位です。しかも経済分野では117位とさらに後退します。世界的に見れば、日本のビジネス社会はかなり男女格差が激しい世界だと言えるようです。

女性管理職を増やすNo.3  WEFのジェンダー・ギャップ指数2018

出典:内閣府

疲弊する男性管理職

とはいえ、日本の昨今の厳しいビジネス環境のなか、男性管理職が優遇されて恵まれた状況にあるとも言えないところがあります。バブル崩壊、リーマンショックなどを契機に企業がリストラを進めてきた結果、現在の企業の中間管理職の数は限りなく減らされており、以下のグラフのように海外と比較しても管理職比率はかなり少ないのです。

女性管理職を増やすNo.4 男性管理職比率の諸外国比較2016

出典:労働政策研究・研修機構

さらに、マネジメントに専念できる管理職も減っています。2019年に産業能率大学総合研究所が実施した「第5回上場企業の課長に関する実態調査」によると、現在の課長クラスは98.5%がプレイングマネージャーです。上場企業でこの状況であれば、中堅・中小企業もおそらく似たような状況でしょう。

近年の課長クラスは、数が昔より絞り込まれているにもかかわらず、成果を上げながら部下を育成する義務もあるためかなり負荷が増しています。一昔前は「あなたの専門は何ですか?」という問いに対して「課長です」、「部長です」と答えるサラリーマンもおり笑い話になっていましたが、そのような牧歌的な時代はとうに終わっています。

日本企業の場合、係長から課長職に昇進すると残業手当やインセンティブが減り収入が下がるケースも少なくないため、昇進したから恵まれた待遇にあずかれるとも言い切れません。

管理職の厳しい現状については、厚生労働省が「平成30年版 労働経済の分析」において、「企業は管理職の業務負担の見直しや能力開発、処遇改善に積極的に取り組むことが重要」と指摘しているほどです。

女性管理職の登用を真剣に考える前に、一度自社の管理職の適正な数や業務範囲、待遇などについて検証する必要もあるかもしれません。

女性管理職が求められる背景

働き方改革関連サイトなどの指針を見る限り、女性管理職が求められる背景に日本の人口減少問題があることは自明です。

日本の高齢化は深刻な問題です。以下のグラフを見てもわかるように、65歳以上の人口(青色)が急激に増え、15~64歳までの生産年齢人口(緑色)の比率は減っていくことが予測されています。

女性管理職を増やすNo.5    我が国の人口の推移

 出典:総務省

生産性を上げるためには労働力人口を増やす必要があります。

日本においては女性の進学率や就労率が高いにもかかわらず非正規社員率が高く、指導的立場につく女性が少ない傾向もあります。内閣府が「我が国最大の潜在力」と表現するように、女性という資源にはまだかなりのポテンシャルがあると言えるでしょう。

何らかの事情で働きたいにもかかわらず、能力を発揮するチャンスがなかった女性が力を発揮できるようになれば、企業や社会に有益であることは間違いありません。このような背景もあり、近年官民あげて女性管理職を増やすことが奨励されているのです。 

女性管理職の増加から企業が享受できること

それでは、女性がそのポテンシャル、能力に見合った活躍ができると企業にはどのようなプラスの影響があるでしょうか? 女性管理職の比率については前述の諸外国の数字を見てもわかるように欧米といえども、ここ10年でようやく3割前後にもってきている現状です。

したがって、まだ事例が多いわけではありませんが、いくつかのプラス面が調査や研究結果に出てきています。例えば、経済産業省が公表するデータでは、以下のメリットが指摘されています。

その1 株式パフォーマンスが向上

女性管理職を増やすNo.6 女性取締役がいる企業の株式パフォーマンス(経済産業省)

出典:経済産業省

その2  利益率の向上

国内においても、勤続年数の男女格差が小さい企業や、再雇用制度がある企業、女性管理職比率が高い企業のほうが、利益率が高いというデータが出ています。

女性管理職を増やすNo.7 女性管理職比率と利益率(経済産業省)

女性管理職を増やすNo.8   再雇用制度と利益率(経済産業省)

出典:経済産業省

その3 優秀な人材の採用

また、女性管理職を増加させると採用力の向上が期待できます。昔からグラス・シーリング(ガラスの天井)という言葉が女性に知られていたように、働く意欲が高い女性は職場を選ぶときに、昇進の機会が実際にはどのくらいあるかを気にします。女性の取締役、部長クラスが増えることで、優秀な女性の採用がしやすくなります。

また、グローバル化にともない国内外で優秀な外国人材を採用したい企業も多いかと思いますが、女性管理職比率が高くなることで、一般的な日本企業とは違い国籍・年齢の区別なくキャリアアップできる企業という印象を与えることができ、イメージアップにつながるでしょう。

その4 ガバナンス強化

イギリスのある大学の研究結果においては、女性管理職が1人以上いる企業はガバナンスが強化でき、破綻する確率を20%ほど低下させるというデータが出ているそうです。

昨今、日本でもいろいろな企業不祥事が起きています。企業組織では一般常識より企業の論理が優先されることがありますが、ヒエラルキー構造が強い組織では社員がおかしいと思っても意見を言えない土壌ができていることが少なくありません。日本の場合、男性が一度レールから外れると再起が難しい社会であることも影響しているでしょう。

しかし、女性には「保身に走らない」人材が少なくありません。これは、就労していなくても社会からドロップアウトしたと見なされない女性の立ち位置が関係していることもあるかと思いますが、組織が法やモラルを踏み越えそうになったときに正しい指摘をできる人材が増えることは、企業のリスクヘッジにつながるでしょう。

女性管理職が増えない理由

それでは、メリットがあるにもかかわらずこれまで女性管理職が増えなかった理由は何でしょうか? また、国が女性活躍推進を奨励してもなぜいまだに女性管理職がそれほど増えていないのでしょうか?

この問題については企業が女性を軽視している、あるいは女性の能力や意欲の問題というような単純な話ではなく、日本社会の風潮、雇用文化、製造業主体であった産業の歴史などいろいろな要因が絡んでいます。

年功型人事制度と女性のライフプランのミスマッチ

従来の日本の企業の人事制度は年功型が一般的でした。例えば、新卒で入社し20代後半~30歳前後で係長ポスト、30 代後半~40歳前後で課長というふうに、業務スキルだけでなく勤続年数を考慮して昇格させていくスタイルです。

しかし、女性は結婚・出産・育児というライフイベントがあるため、30~35歳前後の管理職昇進手前で辞めてしまう傾向があります。以下の労働政策研究・研修機構の2014年時点のデータでは、企業が考える「役職者の女性比率が低い理由」のもっとも多い解答が「管理職になる前に辞めてしまう」です。

女性管理職を増やすNo.9 役職者の女性割合が低い理由

出典:労働政策研究・研修機構

また、そもそも管理職世代の女性の採用が少ないことや、女性側がいろいろな事情で管理職昇進を希望しないという結果も出ています。

育児と仕事の両立、育児休暇がとりづらい環境、保育園不足の問題などの制約があるなか、独身時代と同じように仕事に打ち込めないと判断し、退職する道を選ばざるをなかった女性の現実がうかがえるデータです。

子育て中、非正規社員を選ばざるをえない状況

そして、家庭と仕事を両立させるために多くの女性が非正規社員として働く道を選ぶことになります。

例えば、女性が非正規社員として働く場合、求人の多さからサービス産業を選びがちです。サービス産業はほかの業界と比較すると女性が働きやすく、女性管理職の比率も高い業界です。が、一方で昔から女性と学生の安い労働力に依存してきた業界でもあります。

現在も、流通、小売、介護などさまざまなサービス産業で働く女性の多くは非正規社員です。それにもかかわらず、現場の店長、施設長などのマネジメントするポジションにパート、派遣、嘱託社員などの非正規社員がついているケースは少なくありません。

もちろん、企業の方針だけではなく、非正規社員のみの職場において自然発生的にリーダーが生まれ、本人も裁量権が広がったために満足しているケースもあるでしょう。

しかし、出産と同時に多くの女性が退職せざるを得ない環境があること、子育てとの両立の難しさから非正規社員として働く女性が多いことを踏まえると、一度退職してしまった女性は能力があるにもかかわらず非正規という立場になったがゆえに、仕事に打ち込んでも、業務内容に見合った評価や報酬を得ることが難しい構造ができてしまっていることもうかがえます。

女性管理職を増やすNo.10  末子の年齢階級別にみた母の仕事の状況

出典:労働政策研究・研修機構

その2 多彩な女性のキャリアプラン

ただし、女性が一定のキャリア積んだあと退職するのにはポジティブな理由もあります。女性は男性と異なりキャリアプランが多彩です。女性の社会進出が進むなか、自然にコースが枝分かれしてきたかたちですが、選択肢が多くかつそこに優劣やヒエラルキーがありません。

「専業主婦」あるいは「子育て中のパート勤務」、「フリーランスや起業」、「企業での出世」などのいずれもが、個々の価値観の違いはあるもののほぼ同等として見られます。昨今、専業主婦に対して「無職」というネガティブな表現をする傾向が散見する感はありますが、30年前は専業主婦がスタンダードだったこともあり、外で働かなくても非難はされない立場だったと言えます。

企業内での管理職昇進というコースも、あくまで女性が思い描くキャリアのone of themであり、仕事のやりがい、待遇、社会的評価を含めて考えたとしても特別に魅力的なコースとは言えません。そのため、企業内に残る女性の絶対数が少なくなっているとも言えるでしょう。

(例)

  • 専業主婦
  • 子育て中の一時的なパート勤務
  • 企業内で管理職を目指す
  • 企業で専門職として活躍する
  • 起業、フリーランスになる
  • NPO、ボランティアとして活動

マネジメント経験をつむ機会の少なさ

また、女性が育つ過程において、マネジメントスキルを身につける機会が少ないことも影響している可能性もあります。日本には「女性は控えめ」「相手を立てる」ことが好まれがちな文化があります。学校やクラブ活動などでも、部長のポジションが男性、副のポジションに女性がつくことが自然だった社会を生きてきたことも影響してか、女性がチャンスを前にしても一歩引いてしまう傾向もあると言えます。

女性自身も企業内でそこまで野心を持っていないケースもあれば、男性上司が配慮ゆえに女性社員に成長の機会をあまり与えることができなかったという場合もあります。企業の体制が平等であっても、自然に女性のほうがマネジメント的な業務を経験する機会が少なくなりがちな面はあったと言えるでしょう。

女性管理職を増やすには?

今後、女性管理職を増やすにはどのような施策が必要でしょうか? この問題も現在、進められている働き方改革全般の施策と同じように、制度や職場環境などのハード面と意識というソフト面の変革が必要になっていくでしょう。

その1 制度の整備、働き方改革

多くの女性の退職理由に育児と仕事の両立があります。女性管理職を増やすには、育児休暇制度を設けるだけでなく実際に運用できる体制を整えることが必要です。

子育て中の女性が必ずしも出勤しなくても仕事ができるように、在宅ワーク、テレワーク、サテライトオフィスなどを活用できる体制を整え、本人及び周囲の負担を減らしていくことが大切です。もちろん、必要以上に特別扱いをするということではなく、会社全体で業務を見直し必要に応じ誰もがリモートワークを活用できるように業務を効率化していくことが必要です。

日本は高齢化社会に突入しており、これから大介護時代に入ると言われています。男女問わず介護離職者が増える可能性もあるため、場所を選ばずに働ける体制を整えておくことは先々プラスになります。

その2 中間管理職のイメージ向上

管理職そのもののマイナスイメージを払拭する必要もあります。近年は、若者が中間管理職に憧れを抱かなくなっています。もちろん、実際の適性年齢になった時の判断とは違うのでしょうが、客観的に見て「管理職=重労働、責任重大、残業過多」などのイメージがあることは事実です。

社内に目標となる人材、憧れるポジションがいるといないとでは若い人材のモチベーションはかなり違います。中間管理職の権限や待遇を見直すことは、女性管理職への希望者が増えるだけでなく、男性社員のモチベーションにもつながります。

もちろん、女性管理職のイメージアップを図る必要もあります。メディアが取り上げる女性のロールモデルの多くが専業主婦や起業家などが中心です。高収入でロールモデルになるような女性管理職を採用メディアに登場させるなど、採用広報に力を入れることも大切です。

現状、女性管理職のロールモデルが少ないのは女性活用の歴史が短いためいたしかたない面がありますので、これから自社なりのロールモデルを創っていく必要があると言えます。

その3 ジョブ型人事制度への転換

女性管理職を増やす施策は、企業人事のいろいろな課題を同時に見直す契機となります。産業構造がめまぐるしく変化していくこれからの社会では、日本型雇用(終身雇用、年功序列型)の人事制度を続けることは難しくなっていきます。

2000年以降ゆるやかに成果主義にシフトしてきた日本企業ですが、昨今の経団連会長の発言、新卒インターンシップに対する経済産業省、大手企業のメッセージを見ると、ジョブ型人事制度へ転換を志向していることがうかがえます。

ジョブ型人事制度のメリットは、業務範囲と責任が明確になることです。子育て中の女性も責任を果たしていれば負担をあまり感じずに時短勤務や休暇制度を活用できるようになるでしょう。ジョブ型人事制度はこれからの時代に対応しやすい人事制度であるとともに、女性の定着や女性管理職の増加にも効果的だと言えます。

まとめ

2019年9月に、ポーラHD子会社の社長に元派遣社員の女性が就任したニュースが話題になりました。しかし、女性がこれまでおかれてきた社会環境を考えれば、非正規社員という立場の女性に経営幹部になりうる優秀な人材がいても不思議でありません。

女性管理職候補を探す際は、あまり雇用形態、転職歴などにとらわれずフラットに能力のみを見極める目も必要です。身近なところにヒューマンスキル、業務スキルともに高い人材が埋もれていないか、今一度検証するとよいかもしれません。

もちろん、長期的には優秀で意欲ある女性が育児や介護などでキャリアを中断せずに働け続けられるように、職場環境を整えていくことが大切です。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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