アクティブラーニングとは?期待される効果と成功のカギを解説

アクティブラーニングという言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本語に直訳すると「能動的学習」となりますが、この学習方法が今、注目を集めています。

では、なぜアクティブラーニングが求められているのでしょうか。今回はその背景を紐解くとともに、成功するために欠かせない2つの条件についても考えてみましょう。

目次[ 非表示 ][ 表示 ]

アクティブラーニングとは

アクティブラーニングを理解するには、多くの方が受けてきた『受動的学習」について考えてみる必要があります。従来の学校の授業は、教師から生徒へ教科書の内容を一方通行に教えるというのが一般的でした。文部科学省が学習指導要領を設けて、それに沿って全国の小中学校が均一な教育サービスを提供し続けてきました。

またこれまでの学校の授業の特徴として、必ず「答えが存在」していました。数学や英語、国語の読解問題に至るまで、生徒は正しい解を求めるために受験勉強などに励んできました。これにより、日本人の基礎学力はOECD諸国の中でも高水準になりました。2015年には科学的リテラシー、数学的リテラシーの平均得点は1位、読解力の平均得点は6位となっています。

しかし近年はこの受動的学習の限界が指摘されつつあります。詳細は次の章でお伝えしますが、現代では自ら問題を定義したり、答えが無い問題に向き合う必要があります。受動的学習で培ってきた与えられた問題に最適解を導くだけでは通用しなくなりつつあるのです。

そこで、問題発見学習、体験学習、調査学習、グループディスカッションなどを通じて自ら学力を養うアクティブラーニングが注目を集めるようになりました。アクティブラーニングを通じて、文部科学省は「認知的、倫理的、社会的能力、 教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」としています。これにより問題発見能力を養い、最適解が無い場合でも答えを出せる能力を培えるのです。

アクティブラーニングの効果

能動的な学習がどれほど効果があるのか。その根拠が気になる方も多いでしょう。

そこで、アクティブラーニングの研究成果を示すある研究を紹介します。それは、オハイオ州立大学教育学教授のエドガー・デール氏が提唱した「経験の円錐」です。これはエドガー・デール氏の著書、「Audio-Visual method in teaching【学習指導における聴視覚的方法】(1946)」で説明されており、各学修方法の知識定着率を表しています。

名古屋商科大学

(画像参照元:名古屋商科大学)

最も定着率が高いのが「他の人に教える」に対して、講義を受ける「座学」はわずか5%と大きな開きがあります。またアクティブラーニングの手法となる「実演を見る(調査学習)」、「グループ討論」、「自ら体験する」は各々30%、50%、75%と座学に比べ高水準を維持しています。

このようにアクティブラーニングは座学では得られない学習効果が期待できると考えられます。

アクティブラーニングが求められる時代背景

なぜ令和の時代にアクティブラーニングが求められているのかーー。この重要なポイントを読み解くために日本の高度成長以降の時代背景を振り返ってみましょう。

日本社会に答えがあった時代

高度経済成長では、日本は物やサービスを作れば作っただけ売れる時代でした。自動車、テレビ、白物家電などが家庭に広まり、人口も増加していたため市場も拡大。アメリカなど諸外国を追う立場として、海外で広まっているものを国内で展開すればビジネスが成り立つという時期が続きました。

またバブル崩壊直前まで「土地神話」が存在していました。土地は決して値下がりしない、つまり投資対象として損することはないという認識が強かったのです。土地付き戸建てを購入しておけば、老後の生活資金は満たされ、それを実現するには大企業へ入社して、さらに大企業へ入社するために「問題が用意され、最適解が必ずある」受験戦争に勝ち抜き有名大学に入るというのが成功のモデルとして日本社会全体で認識されていました。

このようにかつての日本は経済成長を実現する答え(アメリカなど諸外国の存在)があり、「有名大学に入学し、大企業に入社する」という生き方の答えがありました。そして、答えを導くために解くべき問題も自ずと明確になります。

有名大学に入学するには受験を攻略する必要があり、受験は与えられた科目・試験問題を早く正確に解くことでクリアできます。また日本で「どんな製品やサービスが売れるのか」という問題はアメリカを参考にすれば見えてきます。

日本が成長を続けた戦後経済にはこのような背景があったと考えられます。

答えがない時代に突入した日本社会

しかしバブルの崩壊を機に、日本社会の状況は一変します。人口が減少フェーズに入り、これまで展開していた製品やサービスがこれまでのように売れなくなりました。また経済成長を遂げたことにより日本も先進国の仲間入りを果たしたものの、かつてのように追うべき存在がなくなり答えのない時代に突入しました。

さらに土地価格の下落、不良債権処理などで金融システムが機能不全に陥り、日本経済は衰退のフェーズに入ります。

2000年以降は日本が予期しなかった方向へ世界が移り変わります。インターネット、パソコンやスマートフォンの普及が進んだことにより、物ではなくサービス中心の経済にシフトします。あのトヨタですら、サービス業への転換が迫られているのです。

アメリカからはGoogle、Amazon、Facebook、Apple、MicrosoftなどのIT企業が勃興して世界を席巻したのに対して、日本からは世界的なIT企業が1社も現れない状況にあります。物からサービスへの急激な変化を日本は見通すことができなかったのです。

またデジタル化が進んだ影響で、情報が回るスピードが一気に上がり、世界も大きく変化するようになりました。分野によっては日進月歩という言葉が表すとおり、昨日と今日では正解が異なることもある時代になっています。

日本の労働生産性はOECDに加盟している主要7カ国の中で最下位。改革の遅れが要因の一つと考えられるでしょう。

財団法人 日本生産性本部

(画像参照元:財団法人 日本生産性本部)

なぜこのような状況で日本は世界の先進国の中で出遅れてしまったのか。日本でもその分析が進みつつありますが、その一つの要因として日本人が自発的に問題を発見し、答えを導く力が乏しいのが原因ではないかと考えられます。

先ほどもお伝えしたとおり、高度経済成長期は自発的に探さなくても問題は存在し、それを正確に解き続けるのが社会全体として最も成果を上げやすい行動でした。しかし、デジタル化が進んだ現代では、世界の変化が頻繁に起こり、問題の重要度や答えも頻繁に変わる社会へと変化しているのです。

だからこそ、自ら課題を発見して、問題の設定から答えを導くまで一連の流れを身に着けるアクティブラーニングが必要となるのです。

アクティブラーニングの事例

それでは、アクティブラーニングは実際にどのように展開されているのでしょうか。ここでは学校ごとの取り組み事例を見ていきましょう。

アクティブラーニングでリーダーシップを養う

立教大学

(画像参照元:立教大学)

国内外で類を見ないプログラムを展開して注目を集めているのは首都圏の立教大学です。立教大学は首都圏私立大学で最後発の経営学部を創設。しかし前例にとらわれないカリキュラムでクライアント企業を巻き込みながらビジネス・リーダーシップ・プログラムを開講しています。

ビジネス・リーダーシップ・プログラムでは入学初年次から3年次の前期まで5学期間にわたります。基本的な流れは前期で「リーダーシップ入門」や「起業グループプロジェクト」など実践型プログラムを実施し、後期に「ディベート」や「スキル強化」などの演習を実施するという流れです。

スキルを身につける際にも演習で行い、アクティブラーニングの特徴である高い学習定着率を維持できるよう取り組んでいます。

また学生の卒業後のキャリアにも大きな影響を与えているといいます。新卒学生にありがちなB2Cビジネスを展開する大企業だけでなく、B2Bビジネスを展開している企業やベンチャー企業にも多数就職しているそうです。

また文部科学省からも高い評価を受けており、教育GPのうち「特に優れており波及効果が見込まれる取組」として認定を受けています。これは全国の大学で15件のみで、首都圏の私立大学では立教大学のビジネス・リーダーシップ・プログラムのみでした。

世界を一つに捉える地理歴史教育

北海道伊達緑丘高等学校

(画像参照元:北海道伊達緑丘高等学校)

北海道伊達緑丘高等学校では、日本と世界のつながりなどを意識した授業を展開しています。グローバル化が進む現代において、日本だけでなく世界と関連づけて物事を考察することで社会的事象の意味などを幅広い視野で捉え、学習意欲・学力を向上させようという狙いがあるそうです。

授業ではこれまで別々にバラバラに行われていた日本史、世界史の科目間連携を図り、日本史の講義では世界史を、世界史の講義では日本史とのつながり前提に行います。

実施に展開されている講義の内容には、「アジア貿易へのヨーロッパ商人の参入が招いた影響について、日本の動向と朱印船貿易や鎖国などを関連付けて考える」や「ヨーロッパにおける主権国家体制の成立と旧教・新教間の対立を取り上げ、諸国家間や日本との関係について捉える」などがあり、分野を超えた知識が求められているのです。

またディスカッションを通じて思考力、判断力、表現力の定着を図り、その様子を踏まえて授業の改善も進められています。学習内容を多面的、多角的な視点で眺め、学習の定着率を高めているそうです。

自ら材料を集め、文章の構成力を高める

彦根市立中央中学校

(画像参照元:彦根市立中央中学校)

滋賀県の彦根市立中央中学校では、「心豊かでたくましく生きる生徒の育成」という目標を掲げ、少人数学習や日本語指導などに力を入れてきめ細やかな教育を行っています。

その中でも国語科の一環として「校区内にある小学校の6年生に対して、学校を紹介する」という授業を展開しています。中学校の魅力を小学校6年生に紹介するという明確なゴールのもと、生徒たちが自発的に取り組みます。

授業では中央中学校の魅力になり得る情報集めから、分かりやすい文章の構造を学んだり、グループディスカッションを通じて互いの文章を検討・再考します。そして最後の授業では学んできた内容を振り返り、今後に活かす反省会も実施します。

これにより、良い文章は何か教員から一方的に教えるのではなく、実践と対話を通じてより深い学びを得られるようになります。

根拠ある予想を前提に水の性質を見出す

大田区立調布大塚小学校

(画像参照元:大田区立調布大塚小学校)

大田区立調布大塚小学校では、4年生の理科で「水の三つのすがた」という授業を展開しています。これは従来の実験によって得た結果を踏まえて、水の振る舞いに関する仮説を立て、それを立証するという講義です。

調布大塚小学校のカリキュラムの特徴は、「仮説を立てる」という部分にあります。目の前の現象の原則を掴むには、仮説と検証のサイクルを回し続ける必要があります。この思考プロセスを小学校から身に付けようとした試みです。

また班ごとに実施した実験の結果を教員が示し、その結果に対する共通点を見出す問いかけも行います。教員が答えを与えるのではなく、生徒が答えを導けるようサポートする。それに対して生徒が自ら考察を述べる。このやり取りは小学生でも十分にできることが明らかになっています。

アクティブラーニング実施に向けた3つの課題

このようにアクティブラーニングは従来の受動的学習とは一線を画した内容で、生徒たちの学習意欲を引き出しています。

しかしアクティブラーニングを学校で実践しようにも大きな壁にぶつかることが予想されます。アクティブラーニングを実施する上で課題となるのは大きく分けて以下の3つが考えられます。

ハンドリングできる教師の存在

最大の課題はアクティブラーニングを主導できる教員の存在です。特にグループディスカッションでは、議論が盛り上がるよう、そして教師ではなく生徒自身が議論の中から正解を導けるようリードしなければなりません。また議論を通じて、事象を一般化・抽象化して他の分野でも役立つよう知識を授けるなど高度な技術が要求されます。

現在の教員もほとんどは受動的学習を受けてきました。そのため、能動的学習に求められるスキルを身につけていない可能性もあります。極点な話しですが、これまで受けてきた教育を一度否定するくらいの覚悟がないとスキルは身につかないかもしれません。

またアクティブラーニングは想像してなかった事態に遭遇することもあります。フィールドワークで学生が騒がしくしてしまい周囲からクレームを受ける、グループディスカッションをやろうにもリーダーとなる存在が出てこないなど想定外のことにも対応できる心構えが必要です。

学生の多様性

アクティブラーニングを実施する上で学生が多様な人材と交流できるかも大きなポイントとなるでしょう。異なる価値観を持つものと考えをぶつけ合うことで、学生が思ってもいなかったアイデアが生まれ、新たなものの見方の習得に役立つでしょう。

しかし公立の小中学校では同じ地域で同じ教育を受けてきた子どもたち同士でアクティブラーニングを実施することになります。大学であれば、同じキャンパス内にいる偏差値も同レベルの学生同士で取り組むことになるでしょう。せめて異なるキャンパスの学生と議論できる環境は整えたいものです。

グループディスカッションなどはできる限り多様な価値観を持つ者同士で行うのが理想的です。クラスやキャンパスなど従来の枠組みを超えて、アクティブラーニングを実施できるかも鍵になるでしょう。

アクティブラーニングの場づくり

アクティブラーニングを実施する場合、場をどのように作るかも重要です。普段の教室ではなく、場所を変えることで学生から出てくるアイデアも変わってくるかもしれません。集中してグループディスカッションなどをしたい場合は合宿形式で集中して取り組むのも一つでしょう。

またITが進化した現代であれば、多拠点を結んでビデオ会議システムなどを用いてグループディスカッションなどを実施するのも可能です。このようにツールを活用することでアクティブラーニングをより有効な場にできるのではないでしょうか。

アクティブラーニングを実現する2つの条件

最後にアクティブラーニングを実施し、成功へ導くための条件について考えてみましょう。先ほどの課題を集約すると、以下の2点になるでしょう。

教員の育成

まずアクティブラーニングを主導する教員を育成することです。育成は時間がかかり、すぐに育つわけではありませんが、研修などを通じてノウハウを身につける必要があるでしょう。

現代ではディスカッション研修やコーチング研修など多くの機会が用意されています。そのような場に教員を派遣するのも一つかもしれません。

また私立ではアクティブラーニングを行える教員を専任で雇用するという考え方もあります。人件費の問題などありますが、より良い教育機会を提供する上で検討したいところです。

ITの活用

先ほど学生の多様性について触れましたが、場所の制約などを超えてこれを実現するにはITの力を活用するのが現実的でしょう。

近年はネットワーク回線も高速になり、ビデオ会議システムも高解像度化し、ストレスなく使える環境が整いつつあります。また若い学生たちはビデオ会議システムの画面越しのやり取りも違和感なくできるはずです。スマートフォンのビデオ通話機能などに慣れた世代であればなおさらです。

実際にビデオ会議システムを活用したアクティブラーニングの例もあります。法政大学の地域研究センターでは、「V-CUBEミーティング」を用いて、地域活性化プロジェクトの際に実施する遠隔講義を展開。学生とプロジェクトの受け入れ先、教員をつなぎオンライン上で質疑応答やディスカッションなどを実施しています。

法政大学 地域研究センター

(画像参照元:法政大学 地域研究センター)

まとめ

ここまでアクティブラーニングに関する基礎知識、求められている背景、実施にあたっての課題などをお伝えしました。受動的学習で得られる基礎学力はもちろん、アクティブラーニングで培われる自ら問題を発見し、解決する力は今後ますます重要になるでしょう。アクティブラーニング実施の参考にしていただければ幸いです。

川本 凜
著者情報川本 凜

ブイキューブのマーケティング本部で広告運用を担当しています。

関連記事