定款変更とは?手続の流れや代表的な定款変更のケースを注意点と共に紹介

定款 変更 流れ 注意点

定款変更を行うためには、株主総会等の所定の手続を行ったうえで必要書類を用意し、法務局へ登記申請する必要があります。

今回は、定款変更の流れやバーチャルオンリー株主総会を開催するための定款変更についてご紹介します。

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定款変更とは

まず、定款変更とはどのようなものなのか、その概要をご説明します。

定款とは

定款は、株式会社をはじめとする法人の根本原則であるルールを定めた最高の自主規範です。法人設立のタイミングで発起人が作成します(会社法第26条)。
公証役場で定款の認証を受け、認証を受けた定款を法務局へ提出し設立登記を行うことで、法人が誕生します。

会社法や一般社団法人法など、法人に関する法令は数多く存在しますが、定款できちんと自社のルールを定めることで法令と異なるその会社独自の取扱いが可能となる事項もあります(ex株式譲渡自由の原則に対する株式の譲渡制限(会社法第107条第1項、第2項))。その会社のオーダーメイドの定款を作成できれば、会社経営の効率性が格段に向上します。

定款は原則として社外に公開されません。しかし、紛争が発生し裁判になった場合は定款の内容如何で裁判の勝敗が左右されるケースもありますし、株主総会招集許可申立などの手続では裁判所へ提出する必要があります。有事の際に困らないよう、定款はしっかりと作りこんでおきましょう。

定款の種類

大きく分けると、「原定款」と「現行定款」の2種類があります。

「原定款」は、会社を設立する際に公証役場で認証を受けるものです。

「現行定款」は、過去の定款変更を反映し、現時点でその会社の規範となっている定款を指します。定款変更をすると、その都度現行定款が更新されていきますが、定款変更を行っても原定款と異なり公証役場の認証を受ける必要はありません。

なお、定款変更の作業は原定款を書き換えるものではなく、原定款に変更後の現行定款を追加していく作業となります。変更後の定款(多くの場合は新旧対照表)を綴じ込むことで、変更後の定款が追加されます。

定款変更の条件

定款変更を行うために、クリアすべき要件はありません。後述するとおりきちんと手続きさえ踏めば、どの会社でも、いつでも定款変更は可能です。

定款変更の手続きの流れは?全体のスケジュール感と共に紹介

定款変更 手続き 流れ

定款の変更の手続きには4つの流れがあります。それぞれを簡単に紹介していきます。

株主への招集通知発送

株主総会の招集通知とは、株主総会の開催前に株主に対して送られる、開催要項が記載された通知です。会社によって発送期限は異なるのですが、2週間前までを目安にしましょう。

取締役会設置会社の場合、株主総会を開催する前にまずは取締役会を開催し、取締役会で株主総会の日時・場所や議案を取締役会決議で定める必要があります(会社法第298条第4項)。

取締役会を設置していない会社であれば取締役会決議は不要(そもそも取締役会が存在しない)なので、取締役が議案等を決定し(会社法第298条第1項)、招集通知を発送します。

招集通知には、定款のどの規定を変更するのかが分かるよう、変更箇所の新旧対照表を添付資料とするのが一般的です。例えば、日本工営株式会社では決算期の変更と事業目的の変更を行う際に、招集通知に新旧対照表を添付しています。

株主総会の招集通知について。発送時期や記載すべき項目を紹介

株主総会の招集通知については「株主総会の招集通知について。発送時期や記載すべき項目を紹介」で詳しく解説しています。

株主総会

定款の変更は、株主の利益に重大な影響を及ぼします。そのため、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法第466条309条第2項第11号)。もっとも、下記のとおり、株主総会が不要な場合や、決議要件が厳格化される場合がありますから、しっかりと法令の条文を確認してから定款変更の手続きを進めていきましょう。

定時株主総会の開催時期はいつ?日程の決め方やその理由を解説

株主総会を開催するための手続きの流れについては「定時株主総会の開催時期はいつ?日程の決め方やその理由を解説」で詳しく解説しています。

株主総会が不要なケース

①単元株式の減少及び廃止

②株式分割の際の発行可能株式総数の増加

この2つのケースでは、株主総会の決議は不要です。

①は、単元株式が廃止されれば従前の単元未満株主が権利を回復することになり、株主に不利益はないため、取締役の決定or取締役会設置会社であれば取締役会決議で行えます(会社法第195条第1項)。

②は、株式の分割の際に発行可能株式総数を増加させても既存株主の持株比率に影響はなく株主に不利益はないため、株主総会の決議は不要とされています(会社法第184条第2項)。

変更しても株主に不利益がないなら株主総会は不要、ということです。

株主総会の特別決議

もっとも、一定の例外があり、株主の利益により重大な影響を及ぼす変更をする場合には、決議要件が厳格になります。
例えば、定款変更により株式に譲渡制限を設ける場合には特殊決議が必要となり(会社法第309条第3項第1号)、剰余金の配当、残余財産の分配を受ける権利や議決権につき株主ごとに異なる取扱いをする旨定款変更する場合にも特殊決議が必要となります(会社法第309条第4項)。

会社を設立した後に上記事項を変更しようとすると、定款変更の手間も費用もかかってしまいますし、そもそも株主に反対され株主総会の決議ができない可能性もあります。設立する前の段階で、しっかりと定款をつくりこんでおきましょう。

定款変更登記申請

定款変更をすると、登記が必要になる場合があります(会社法第911条第3項第915条)です。会社法の条文は細かく規定されているので、ざっくりまとめると以下の事項については、定款変更のともない登記が必要とイメージしておくとよいでしょう。

  1. 会社の商号
  2. 事業目的
  3. 本店所在地
  4. 支店の移転や設置・廃止
  5. 株式の種類、発行可能株式総数、単元株
  6. 公告方法
  7. 取締役会の設置・廃止
  8. 監査役の設置・廃止
  9. 機関構成

逆にいえば、上記以外の事項について定款変更を行っても、登記申請は不要です。例えば、事業年度を変更したとしても登記申請は不要です。

代表的な定款変更のケースと注意点

ここでは、会社が定款変更を行う代表的な例をご紹介します。

機関変更のため

会社の成長に伴い、会社の機関(ex取締役会、監査役会、指名委員会)を変更することがよくあります。指名委員会等設置会社や、直ちに指名委員会等設置会社になることが難しい会社では監査等委員会設置会社へ移行することが多いです。このような定款変更が多い背景は、企業に求められるコーポレート・ガバナンスの水準が厳格化していることにあります。

例えば、株式会社キャンバスは、監査等委員会へ移行するため、定款変更を行っています。

定款変更 例

出典:株式会社キャンバス 第1号議案 定款一部変更の件

逆に、シンプルな経営体制とするため取締役会や監査役を廃止するために定款変更を行うケースもあります。特に、家族経営の会社では、相続や経営権の争いを経てシンプルな経営体制へ変更する会社が多いです。経営の機動性を確保するという観点では、設置する機関を取締役と株主総会のみとするなど、無駄をそぎ落とした機関設計が有効です。

会社の基礎的な事項を変更するため

社会情勢や自社の経営状況に応じて、会社の事業内容は変化していくものです。場合によっては、自社の社名(商号)や事業年度を変更する必要も出てくるでしょう。このように、事業の目的、商号、事業年度といった会社の基礎的な事項を変更する目的でも、定款変更は行われます。例えば、株式会社シンシアでは、事業目的を変更するために定款変更を行いました。

会社の基礎的な事項は登記事項ですので、株主総会で定款変更の決議を行った後は登記申請を忘れずに。

法改正に対応するため

法令は、社会情勢の変化に合わせ頻繁に改正されています。企業は、コンプライアンスやCSRの観点から法令遵守が厳格に求められます。そこで、法令の改正に合わせ、定款変更を行うことがよくあります。

例えば、センコン物流株式会社では、2022年9月1日施行の改正会社法に対応するため、株主総会資料の電子提供制度について定款へ追記するための定款変更を行っています。

書面決議でも定款変更は可能?

株主総会決議をより簡単に済ませる方法として、書面決議という方法があります。ここでは、定款変更を書面決議で行えるのかご説明します。

書面決議とは

書面決議とは、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録に同意の意思表示をしたときは、議案を可決する株主総会決議があったものとみなす制度です。株主総会を開催するまでもなく、書面のやり取りのみで決議を行えるため非常に便利です。小規模な会社や株主の数が少ない会社では書面決議が頻繁に行われています。

株主総会を開かずに決議してもいいの?と不安になるかもしれませんが、書面決議は会社法第319条で認められている適法な決議方法ですのでご安心ください。

議事録の作成・備置や登記は通常の決議と同じように必要になります。これら決議後の手続は書面決議を行ったとしても省略できませんので注意しましょう。

株主総会の書面決議とは?実施可能な要件や開催の流れ、メリット・デメリットを解説

書面決議については「株主総会の書面決議とは?実施可能な要件や開催の流れ、メリット・デメリットを解説」で詳しく解説しています。

書面決議で定款変更は可能?

書面決議によっても、定款変更の株主総会決議を行うことは可能です。

書面決議を行う場合、招集通知は発送されません(株主総会を開催しないため)から、書面決議の案内文に定款変更の内容を議案として明記し、添付書類として変更する定款の規定の新旧対照表を添付しておきましょう。

余談ですが、株主総会における決算報告も書面決議で可能です(会社法第438条第3項第320条)。書面決議は非常に便利なので、活用してみてはいかがでしょうか。

書面決議の定款変更で注意するポイント

書面決議が実現できる理由は、全ての株主が友好関係にあり(少なくとも敵対株主ではない)、「わざわざ株主総会を開催しなくても会社経営に問題はなく自身の権利利益が害されることもない」という共通認識があるからです。

そのため、多くのケースでは、株主の同意のもと招集通知の発送も省略されます(会社法第300条本文)。本来であれば、招集通知に定款変更が議案として記載され、変更箇所を明らかにする新旧対照表も招集通知に添付されていますが、書面決議ではこれらがありません。

そこで、書面決議を行う際は、定款変更の内容を明らかにするよう、議案の案内分と新旧対照表を全ての株主へ発送する必要があります。関係性が悪化した際に株主総会決議取消の訴え(会社法第831条)や株主総会決議不存在・無効確認の訴え(会社法第830条)を提起されるリスクがあります。

書面決議は株主総会を省略できる便利な制度ですが、事前・事後の準備はしっかりと行いましょう。

バーチャルオンリー株主総会の場合は定款変更が必要?

バーチャルオンリー株主総会を開催する場合に、前もって定款変更が必要なのでしょうか?ここでは定款変更とバーチャルオンリー株主総会の関連性をご紹介します。

バーチャルオンリー株主総会とは

バーチャルオンリー株主総会とは、物理的な会場を設けず、株主はインターネット等を通じて出席する方法で行われる株主総会です。法的には、「場所の定めのない株主総会」と呼ばれます。

バーチャル株主総会が増加する背景

近年、バーチャル株主総会(ハイブリット型含む)を開催する企業が増加しています。その理由はシンプルで、企業にとっても株主にとってもメリットが多いことに尽きます。

まず、株主にとっては、遠隔地に居住していても株主総会に出席しやすくなる、株主や企業の役員等が会場に集結しないので感染症拡大のリスクを抑えられるというメリットがあります。

他方で、企業にとっても、リアルの会場を設ける必要がなくなり会場使用料や設営のための労力といったコストを削減できる、感染症拡大のリスクを抑えられるというメリットがあります。また、昨今急激に普及しつつあるDXに取り組んでいることをアピールできる点も企業にとっては大きなメリットといえるでしょう。

バーチャルオンリー型株主総会が可能に!法改正のポイントを解説

バーチャルオンリー型株主総会については「バーチャルオンリー型株主総会が可能に!法改正のポイントを解説」で詳しく解説しています。

定款変更は必要?注意するポイントは?

バーチャルオンリー株主を行うためには、①経済産業大臣及び法務大臣の確認を受け、②株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨を定款に定める必要があります。そのため、バーチャルオンリー株主総会を行うためには、定款変更が必要になります。

株式会社チェンジでは、定款に「場所の定めのない株主総会とすることができる。」とする定款変更を行っています。株式会社エムティーアイでも、同様の定款変更が行われています。

定款変更 バーチャル株主総会

出典:株式会社チェンジ 臨時株主総会招集ご通知

産業競争力強化法には特例期間が設けられており2021年6月16日の施行から2年間は、バーチャルオンリー株主総会の開催が認められます。

ただし、特例期間中のみなし定款に基づくバーチャルオンリー株主総会では、「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨の定款変更の決議はできません。バーチャルオンリー株主総会を常態化させたいならば、早い段階でリアル株主総会やハイブリット型株主総会を開催し、バーチャルオンリー株主総会を開催できるよう定款変更を行っておきましょう。

なお、2022年8月31日時点で、バーチャルオンリー株主総会を開催した会社は22社、同日時点までにバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする定款変更議案を株主総会で決議した会社は316社となっています。バーチャル株主総会 定款変更 状況

(出典:「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」経済産業省産業組織課

まとめ

今回は、定款変更の手続きの流れや、バーチャルオンリー株主総会を行うために定款変更が必要か否かご紹介しました。事業年度を重ねれば重ねるほど、時代の変化や法令の改正に対応するため定款変更が必要な場面も増えてきます。定款変更の手続きの流れを理解し、書面決議やバーチャルオンリー株主総会を上手に活用し、クリーンな経営を実現しましょう。

専門家のサポートを受ければ、適切かつスピーディに定款変更を行えるため、利用を検討してみてはいかがでしょうか。

池下菜都美
著者情報池下菜都美

株式会社ブイキューブに新卒入社。 ビジュアルコミュニケーションに関する複数製品のインサイドセールスを経験。現在は、マーケティングコミュニケーショングループにてイベントDX領域における広告運用およびオウンドメディアの編集、ナーチャリングを担当。趣味は映画とダンス。

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