快適な職場環境とは?成果の出る改善アクションを知るための手引き

2018年に公布された働き方改革関連法の影響を受け、フレックスタイム制やテレワーク、短時間正社員制度や副業といった「多様な働き方」が多くの企業に導入されました。そのうえ、2020年に起きた新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる行動制限は、在宅勤務やWeb会議の浸透を後押しする形となっています。

こうした状況を背景に企業の総務担当の方は、改めて職場環境について考える必要性に迫られているのではないでしょうか。とはいえ、ここ数年の働き方の変化はあまりに急激だったため、何をどうすればいいのか悩むケースもあるかもしれません。

そこで今回は、そもそも職場環境とは何を指すのか、どのようなアイデアがあり、どこに成果が見込めるのかといった情報をまとめてお伝えします。具体的な成功事例についても紹介しているので、職場環境の改善に向き合う方はぜひ参考にしてください。

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職場環境の3大要素

職場環境の3大要素

「職場環境」と一口に言っても、そのイメージは人によって差があるかもしれません。そこでまずは、職場環境が何によって構成されているのかを確認していきましょう。職場環境とは、主に以下の3要素によって成り立っています。

  • 業務内容
  • 人間関係
  • オフィスの作業環境

要素1.業務内容

「環境」という言葉からすると意外に聞こえますが、業務内容も職場環境改善には欠かせない要素です。厚生労働省の令和3年労働安全衛生調査によると、仕事や職業生活に強い不安やストレスを感じている人が挙げる原因の上位は以下のようになっています。

  • 第1位:仕事の量(43.2%)
  • 第2位:仕事の失敗、責任の発生等(33.7%)
  • 第3位:仕事の質(33.6%)

仕事の量が多く残業が常態化することで、ワーク・ライフ・バランスが崩れやすくなります。また、責任が重すぎる業務内容は失敗することへの恐怖心を生み、強いストレスへとつながることもあるでしょう。

社員の適性にマッチしない業務はモチベーション低下へとつながるため、仕事の質を考えることも大切です。

要素2.人間関係

先ほどの厚生労働省の令和3年労働安全衛生調査でも、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを含む対人関係にストレスを感じている人の割合は25.7%と第4位です。これは、人間関係が働く上でのストレスに大きく関わっていることの表れといえるでしょう。

また、アメリカで行われた生産性向上の要因を調査する実験である「ホーソン実験」からも、人間関係が生産性に大きく影響することが分かっています。

この実験では当初、設備や労働条件が生産性の向上に影響を与えるはずだと仮定され、職場の照明や作業手順、待遇を変えながら生産性の観察が行われました。しかし、いずれにおいても明確な相関関係は得られませんでした。

しかしその後、実験の手法を集団作業や面接に変更し、人間関係や個人的感情と生産性との関係を調査したところ、人間関係が良好だったり、感情が前向きだったりするほど、生産性が上がることがわかりました。つまり、人間関係や感情は作業環境や待遇よりも生産性に影響する要素だということです。

実際は設備や労働条件も快適な職場環境にするためには重要なポイントですし、ホーソン実験は手法や解釈に誤りがあるのではないかという批判もあります。しかし、人間関係が悪いような職場では、業務に関係のない部分での悩みが起きがちですし、職場でのストレスが増えてしまうことは事実でしょう。

要素3.オフィスの作業環境

作業環境には、働く人の安全面・衛生面に関するもの、働きやすさや居心地の良さに関するものなどがあります。

オフィス内の照明や温度、更衣室やトイレといった項目は、社員の安全や衛生に影響するため、労働安全衛生法を中心に規定されている部分です。一方、デスクやパソコン、ネット環境などは、作業効率アップによる働きやすさの実現が期待できます。

法令を守ったオフィスにすることはもちろんですが、さらに自社が必要とする作業環境を整えることが重要です。社員が集中して業務につけるような環境を整えましょう。

職場環境の改善で得られるメリットとは

職場環境の改善に必要性は感じていても、施策による具体的な目的がイメージできなければ計画を立てるのは困難です。そこで次に、職場環境を改善するメリットを解説します。

生産性の向上

先述のとおり、社員の感情は生産性に影響を与えるため、職場環境の改善によって社員のストレスが軽減され働きやすくなれば、生産性の向上が見込めます。実際に、職場のメンタルヘルスに対する費用対効果を以下のように数値化した調査もあります。

【施策の費用対効果】

  • 投資額の3.0倍:職場環境改善
  • 投資額の2.4倍:個人向けストレスマネジメント教育
  • 投資額の1.2倍:上司の教育研修

この調査では、社員の精神的な健康を考えたときに「職場環境改善」「個人向けストレスマネジメント教育」「上司の教育研修」のうち、費用対効果が最も高い手段は職場環境改善だと示されています。

具体的には、上司の教育研修にかかる投資額5290円(社員1人あたり)に対する効果は6600円と、約1.2倍ですが、職場環境改善では投資額7660円に対し、2万2800円と約3倍の効果を発揮する計算です。

このことから、職場環境の改善は個々の社員への教育や研修よりも大きな成果をもたらすことが分かるでしょう。生産性の向上は最終的に会社の利益へとつながるため、企業としての成長には職場環境の改善が重要といえます。

離職率の低下

離職者が後を絶たない企業では、社員の知識や経験を蓄積させたり、継承したりすることが難しくなるため、社内の人材育成やキャリア形成に支障をきたします。その点、職場環境の改善は企業と社員の双方にとって、不本意な離職を減らす効果があります。

事実、株式会社OKANによる人事・総務担当者を対象とした調査では、離職理由の第1位は「人間関係:30.7%」、第2位「キャリアチェンジ:20.2%」、第3位「職場環境:18.4%」という結果になりました。

人間関係も職場環境の一要素であるため、職場環境改善によって働きやすさを実現し、社員の帰属意識やモチベーションを向上させることができれば、離職率の低下につながるでしょう。

採用競争力の強化

職場環境の改善は、社内だけでなく社外に対しても良い効果を発揮します。その代表的な例が、採用競争力の強化です。

就職・転職活動の際にインターネットを活用する人は多く、Web上にある社員・元社員の口コミやSNSの書き込みから企業の風評をチェックする人もいるでしょう。株式会社エフェクチュアルの調査によれば、こうした風評が入社の決め手に影響すると回答した人は63.9%で6割を超えています。

また株式会社ビズヒッツの転職に関するアンケートでも、転職の決め手となった理由上位5つのなかに「社風・雰囲気にひかれた」が入りました。

つまり、職場環境の改善によって社員がポジティブな感情を持って働けるようになれば、風評や雰囲気に良い変化が起き、就職・転職希望者から選ばれやすくなる可能性があるといえるでしょう。

法令遵守の徹底

労働基準法や労働安全衛生法といった労働関係諸法令は、働く人の権利を保護するために必ず守られなければならず、違反行為は罰則の対象となる可能性があります。

法令を守っていないことが分かると取引先や顧客からの信頼も落ちますし、どのような法令があるのか確認し必ず守るようにしましょう。職場環境改善は、こうした法令の遵守にとっても重要な施策です。ここでは、必要最低限の情報を紹介します。

職場環境への配慮義務

職場環境への配慮義務とは、下記、労働契約法第5条のいわゆる「安全配慮義務」の一部として位置づけられているものです。

【労働契約法第5条】

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

具体的には、長時間労働や過度な業務負荷によるストレスが発生しないようにする、各種ハラスメントを防止し、円滑な人間関係を形成する、オフィスの物理的条件を整えるなど、職場環境の3要素が全て含まれます。

快適な職場環境形成のための措置

先ほど解説した職場環境への配慮義務に関する条文は、抽象的でわかりにくいと感じる人もいるでしょう。そこで役立つのが、厚生労働大臣が労働安全衛生法を根拠に公表している「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」です。企業が実施すべき措置には、大きく分けて以下の4つがあります。

  • 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
  • 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
  • 作業に従事することによる労働者の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備
  • その他の快適な職場環境を形成するため必要な措置

指針では、より細かい内容も定められているため、とくにオフィスの作業環境を改善する際は参考にするとよいでしょう。

職場環境改善はストレスチェックから

職場環境改善はストレスチェックから

職場環境を構成する要素と改善のメリットは理解できても、「何から手をつけたらいいのか分からない」という人もいるかもしれません。

その場合は、社員にストレスチェックを実施し、その結果を分析することをおすすめします。一定の集団ごとのストレス傾向が分かるため、必要な施策を打ち出しやすくなるからです。例えば、A支社とB支社のストレスの状況が異なっていれば、それぞれに合った対応が可能となります。

なお、職場環境の改善方法には「経営層主導型」「管理監督者主導型」「従業員参加型」といったものがあり、それぞれのメリット・デメリットは以下のとおりです。

 

メリット

デメリット

経営層主導型

・企業全体の課題に対応できる

・部署ごとの特色を生かした対策は難しい

管理監督者主導型

・管理監督者のスキルアップにつながる

・部署ごとにきめ細かい対応ができる

・管理監督者の権限の範囲によってできることが決まってしまう

・管理監督者の独壇場になるリスクがある

従業員参加型

・現場の声を直接反映しやすい

・コミュニケーションの機会が増やせる

・改善を話し合う時間を必要とする

・人数が多すぎるとまとまらない

※参考:これからはじめる職場環境改善

その他、厚生労働省が公表している「職場改善のためのヒント集」を活用してもよいでしょう。

職場環境を改善するためのアイデア

実際に職場環境の改善に取り掛かる際、どんな方法があるのか気になる人もいるのではないでしょうか。そこでここでは、職場環境を改善するためのアイデアをいくつか紹介します。

1on1の実施

1on1は、人材育成を目的として上司と部下が1対1で話す機会のことで、職場環境の改善に役立てるときに重要です。

ストレスチェックの結果分析では個人を特定することは認められていないため、あくまで集団としての傾向を把握することしかできません。しかし、1on1では業務内容の感じ方や人間関係といったテーマを設定することもできるため、社員の状況をより把握しやすくなります。

また、仕事への取り組み方を褒めたり、家族や趣味などプライベートについてお互いに話したりすれば、モチベーションアップや相互理解にもつながるでしょう。

テレワーク・ハイブリッドワーク・ABWの導入

ストレスチェックの集団分析などにより、社員の働きやすさに関するニーズへの対応が必要となった場合は、テレワークやハイブリッドワーク、ABWを導入する方法があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。

働き方

特徴

テレワーク

・オフィス以外の場所で働くスタイル

・在宅勤務や出先で働くモバイル勤務、サテライトオフィス勤務などがあり、家庭の事情で出社できない人も働ける

ハイブリッドワーク

・出社とテレワークを組み合わせたスタイル

・業務内容によって柔軟な働き方が可能となる

ABW

・仕事や気分に合わせて働く場所を自由に選ぶスタイル

・オフィス以外に、自宅やシェアオフィス、カフェなどで働くことができる

働き方が自由になることで、子育てや介護といった事情があっても仕事を続けやすくなります。また、場所だけではなく時間の自由度も高いABWの場合は、業務にとって最適な場所を選べるため、生産性の向上が狙えるでしょう。

なぜなら、ABWでは集中力を要する作業にはオフィスのワークブース、企画のアイデアを考えるときはリラックスできるお気に入りのカフェといった具合に、効率的な働き方ができるからです。

ABWとはどんな働き方?自由度の高いワークスタイルがもたらす生産性への影響とは

ABWについては「ABWとはどんな働き方?自由度の高いワークスタイルがもたらす生産性への影響とは」の記事で詳しく解説しています。

ワークブースの設置

オフィスの作業環境が問題となっているケースでは、ワークブースを設置するアイデアが改善に役立ちます。なぜなら、オフィスに過度な雑音があると、社員は集中して作業できないからです。

豪州ボンド大学の研究によれば、デスクに仕切りのないオープンオフィスの場合、周囲の会話やパソコンの操作音、スマートフォンの着信音といった雑音は、わずか8分間でストレスを25%増加させるそうです。しかし、社内に個室タイプのワークブースがあれば、雑音を気にせず集中して業務に取り組めるため、生産性の向上が期待できるでしょう。

とくに、近年は新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、非接触で対応可能なWeb会議を導入する企業も増えてきました。ワークブースは、出社している社員が周りの音を気にしていたり、Web会議用のスペース自体が不足していたりするといった課題をクリアする手段の1つとなります。

オフィスでのWeb会議や集中作業にワークブースを。メリットや導入事例をご紹介

ワークブースについては「オフィスでのWeb会議や集中作業にワークブースを。メリットや導入事例をご紹介」の記事で詳しく解説しています。

職場環境の改善事例

職場環境を改善するアイデアは複数ありますが、どんなふうに導入して実際の効果がどうだったのかという情報も気になるところです。そこで最後に、職場環境の改善事例を3つ紹介します。

1on1で離職率の低下を実現|サイボウズ株式会社

ソフトウェアの開発・提供を行うサイボウズ株式会社は、28%という高い離職率の職場環境を、「働きがいのある会社ランキング」に入賞する(2020年2位)までに改善した企業です。

厚生労働省の雇用動向調査で2006年以降の離職率が平均15%前後になっている点から考えると、職場環境が大幅に改善している例といえるでしょう。

サイボウズが導入したのは、「ザツダン」と呼ばれる1on1です。ポイントは、社員の育成というよりは支援を目的として、自由なテーマで話していることです。業務に関連することだけではなくプライベートの話ができたり、上司以外の相手とも気軽に会話ができたりするため、社員からは「心理的な負担が軽くなった」「人間関係が円滑になった」という声があがっています。

※参考:サイボウズ流1on1ミーティング「ザツダン」とは?

ABW型オフィスで部署を超えた社内交流を活発化|ピー・シー・エー株式会社

ピー・シー・エー株式会社は会計ソフトなどを開発・販売する企業です。IT企業という特性上、新型コロナウイルス感染症の拡大によってテレワークが推奨された際、実に8割の社員が在宅勤務となりました。これがオフィスのあり方を考える機会となり、より働きやすい企業を目指してABW型を導入したそうです。

もともとABWは働く場所をオフィスに限らず、カフェや自宅なども活用するスタイルを指しますが、ピー・シー・エーの場合は、社内にカフェや商談スペースといった雰囲気の異なる空間を複数用意し、オフィス内でABWのように働けるようにしたところが特徴的です。

最初は社員の理解を得るのに苦労したそうですが、結果として他部署の人と隣で仕事をするような状況が生まれ、社内コミュニケーションが活発化した好例といえます。

※参考:在宅勤務率8 割の会社が踏み切った、自社ビルフロアの大規模リニューアル

ワークブースで快適な業務空間を確保|株式会社Works Human Intelligence

法人のHR関連業務をサポートするソフトウェアメーカー、株式会社Works Human Intelligenceは、ワークブースである「テレキューブ」を導入し、職場環境の改善を行った企業です。

その背景には、やはり新型コロナウイルス感染症の拡大によるWeb会議の増加がありました。それまでのオフィスでは、周囲の雑音や機密情報が漏れるのを回避する会議室の数が不十分で、業務に集中するのが難しくなっていました。

しかし、テレキューブは防音性のある個室を後づけできるタイプのワークブースなので、大規模なレイアウト変更や工事を必要とせず、すぐに設置できるのが導入の決め手となりました。これにより、安心してWeb会議に集中できる環境が整い、社員の働きやすさが向上しているそうです。

事例の詳細はこちら

まとめ

職場環境は「業務内容」「人間関係」「オフィスの作業環境」という複数の要素から成り立っているため、複雑に見えることもあるかもしれません。しかし、ストレスチェックの結果分析で、社員の働きやすさを向上させるヒントが見つかれば、改善の糸口をつかめるでしょう。

まずは、現場の声から企業の状況を把握してみてはどうでしょうか。実際の改善アイデアや成功事例にはさまざまなものがあるので、自社に合った施策の参考情報を得ながら、計画・実施をすることをおすすめします。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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