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「生産性を向上させる」「業務を効率化する」「OECDデータでは日本の労働生産性は先進国最低レベル」など、働き方改革が推進されている背景もあり、昨今は生産性という言葉が一般のビジネスの現場でも意識されやすくなっています。

 

本記事では、改めて生産性向上とは具体的にどのような定義なのか? 業務効率化との違いは何か? そして、生産性を高めるために有効な施策についてご紹介していきます。

生産性とは?

まず、生産性の定義から説明します。生産性とは経済学上の用語であり「生産活動に使った資本や労働力などに対してどれだけの価値が生み出されたか」を示す指標です。

 

評価する基準によって「資本生産性」「労働生産性」「全要素生産性」の3種類がありますが、一般に生産性と語られるときは「労働生産性」を意味することが多いようです。

労働生産性とは?

では労働生産性とは何を指すでしょうか? わかりやすく説明すると「労働者一人あたりが生み出す成果」あるいは「労働者が1時間で生み出す成果」の指標です。こちらも細かく説明すると、金額を指標とする「付加価値労働生産性」と生産量を指標とする「物的生産性」の2種類があります。一般に労働生産性と言われるときは「付加価値労働生産性」のことを指します。

 

  • 付加価値労働生産性
  • 物的生産性

 

よく話題になる日本生産性本部の労働生産性に関するデータも、付加価値労働生産性の計算式に基づいたものであり、「金額」で労働生産性が表現されています。

 

 

時間当たりの名目労働生産性

 

出典:日本生産性本部

 

なお、上記は日本の1時間あたりの労働生産性の推移のグラフですが、時間単位ではなく1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)=84,027ドル(837万円)というデータも同じ日本生産性本部から出ています。いろいろな指標で生産性は分析されています。

 

ちなみに2017年の日本の労働生産性は、過去最高の高さを記録しています。

生産性と効率化の違い

生産性と同じような意味合いで「業務効率化」という言葉もよく使われます。業務効率化とは、文字通り業務を効率化する作業であり、位置づけとしては生産性を高めるための手段です。

 

(例)

  • 業務フローを見直す
  • 無駄な会議を減らす
  • メール文章をテンプレート化し共有する
  • ビジネスチャットを導入し社内連絡を簡素化する
  • 優先順位の低い業務をアウトソーシング
  • ITツール、RPA、AIシステムなどの導入

 

など、個人の工夫でできることから業務フローや組織の在り方を見直す会社単位の大きな施策までいろいろな手段があります。仕事の中のムダな部分や重複している部分を効率化するとコストダウンができ、短時間で業務を行えるようなります。売上げが同じであれば、コストが下がるだけで生産性は上がることになります。

 

どのような組織でもムダな業務、非効率な慣習などがあるものです。また、定期的に組織体制を見直さないと時代にそぐわない体制のままになっている場合があります。

 

2014年に労働政策研究・研修機構が行った調査によると、「労働生産性や仕事の効率性を高めるために必要なもの」という質問に対する企業の1位の回答は「仕事内容の見直し(ムダな業務の削減)」です。2位が「仕事の進め方の見直し(決済プロセスの簡素化、会議の短縮化等)」です。

 

労働生産性と効率

 

同調査は労働者に対しても行っていますが、労働者側の回答1位も「組織間・従業員間の業務配分のムラをなくす」であり、経営側、現場ともに自社の仕事の進め方に同じような課題を感じていることがわかります。

 

労働生産性と仕事の効率

 

出典:労働政策研究・研修機構 「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査」

企業に生産性向上が求められるワケ

どの企業も生産性を上げること、つまり売上げを拡大しコストを適正なレベルに抑え、投資金額をはるかに超える利益を出すことが目標です。その利益により人材を雇用し、新しい事業分野への投資ができ、税金を納めることができ、余力があれば社会貢献活動にも投資ができます。 ゆえに生産性向上は、企業の命題であり永遠に取り組むべきテーマです。

 

もともと日本はトヨタの看板方式しかり、多くのメーカーが戦後取り組んだQC活動しかり、製造現場においての生産性向上への取組は諸外国よりも進んでいたと言えます。

 

しかし、労働集約型の小売業、サービス業では生産性を上げるという意識がさほど浸透してこなかったためか、かなり労働生産性が低い状況にあります。


企業規模別の時間当たり労働生産性

 出典中小企業の労働生産性 第3章 - 中小企業庁 - 経済産業省

 

労働集約型の企業こそが人材不足という課題を抱えているため、販売、接客現場はITシステムの導入などの業務効率化や生産性向上をよりすすめていく必要があるでしょう。

また、業種問わず企業の間接部門の生産性の低さも指摘されており効率化が必要です。

 

いずれにせよ、これからの日本は少子化により労働力人口が急速に減少していきます。すでに中堅・中小企業は労働者確保が困難になるという課題に直面しており、人手不足倒産も増えています。今後はますます16歳から64歳までの生産年齢人口の比率が低くなるため規模の小さい企業ほど人集めが難しくなるでしょう。


高齢化の推移と将来設計

 

出典:内閣府

 

労働力が不足しているときにとれる施策は、労働力確保か労働生産性の向上の2つです。そのため官民挙げて外国人、高齢者、女性の活用に力を入れるとともに、現在勤めている既存社員一人ひとりの生産性を高める施策を推進していると言えます。

日本と他国の生産性の比較

前述のグラフのように日本の労働生産性は徐々に上がってきており過去最高のデータですが、ほかの先進国に比べるとまだ低い水準です。

 

2017年時点の日本の労働生産性はOECD加盟36カ国中20位であり、前年と同じです。この順位は今さら驚くことでもなく、日本の生産性は高度経済成長期、バブル期のころからずっと先進国で最下位レベルを推移しています。


OECDの労働生産性

 

(通貨:ドル)

出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2016年版

 

ただしこの数値はGDPを国内の就業者数で割っているため、農業、漁業、自営業者も含まれています。あくまでマクロの数字であり、一般企業の生産性がすべて低いと言い切ることはできません。

 

しかし、生産性向上への取組と言う観点から言えば、労働生産性の高い諸外国はそれなりに努力を重ねており、日本より先行しているようです。例えば、米国では2000年代以降、小売業などのサービス業でITシステムを積極的に導入し労働生産性を向上させたと言われています。

 

フランスは1998年に週35時間労働制を導入するとともにテレワーク、コワークの普及に力を入れています。働き方の多様化を推進し、在宅ワークやリモートワークができるように国内にコワーキングスペースを増やし、オフィスに通勤しなくても仕事が行える労働環境を整備しています。

 

どの国も課題を抱えながらも生産性向上に取り組んできているのです。日本は周回遅れで取り組んでいるのが現状ですが、その分他国の成功と失敗を参考にできる立ち位置にあると言えるでしょう。

生産性への誤解

生産性という言葉は製造現場で使われることが多かったためか、クリエイティブなイメージがなく、誤解されやすいところがあります。現在の働き方改革が「働かせ改革」と揶揄されることもあるように、生産性向上への取り組みそのものが誤解されているきらいもあります。

誤解1:仕事が増える?

よくある誤解が生産性を上げる=労働者の仕事が増えるというものです。生産性向上とは本来であればITツールなどの導入以前に会社の業務フローを見直し、不要な業務はなくし、重複している業務は統合し、優先順位の低い業務はアウトソーシングするなど、とにかく無駄な業務を減らし一人あたりの利益率を上げることが目的です。

 

例えば、経理や総務業務をクラウド化したり、一連の業務にRPAを導入したりすれば、従業員はより価値を生み出す仕事につくことができるようになります。業務はむしろ楽になるはずです。

 

もちろん、業務フローを見直さず、必要なITインフラの整備もせず、残業時間だけ減らすと単に現場に負荷がかかります。環境を変えずに一従業員が個人の工夫のみで業務を効率化し空き時間ができたところに追加の仕事をいれてしまうと、優秀な従業員に仕事が集中し疲弊してしまうリスクもあります。

 

 生産性向上への取組みは企業単位、部門単位で業務フローの見直しから着手する必要があります。

誤解2:休みが取りにくくなるのでは?

内閣府の2017年度の「年次経済財政報告-技術革新と働き方改革がもたらす新たな成長-」では「労働時間が短いほど生産性が高くなる」ことが報告されています。これは、OECD加盟国を比較して、労働時間の短縮が生産性向上に結び付いているデータを分析して出た結果のようです。

 

労働時間と生産性

 

出典:内閣府

 

今後、働き方改革も多少の試行錯誤を繰り返しながら進んでいくと思いますが、現状、国なり企業が志向しているのは「週休3日」「労働時間削減」「副業解禁」など働く側の自由度を高める方針です。

 

そもそも8時間労働が先進国に定着したのも、米国のフォード自動車を中心とする企業がさまざまなデータを取り、9時間労働、10時間労働よりも8時間労働の生産性が高いという検証があって普及しています。過剰労働は短期的には生産性が上がっても、長期で見ると労働者が疲弊し、むしろ生産性が下がるのです。

 

時代は大きく変わりIT社会となった今は、さらに労働時間短縮の方向に向かうことはあっても、労働時間が増えることは考えにくいと言えるでしょう。

誤解3:単調作業が増えるのでは?

単調な業務が増えるという誤解もあるかもしれません。これについてはまったく逆であり、安価なITツール、RPAなどの普及により単調な業務はむしろかなり減少していくでしょう。コスト的に単純な業務を人間にさせることはメリットがなく、逆により創造的な仕事、イノベーションを生む仕事が人間には要求されることになります。

企業が取り組むべき生産性改善の方法

生産性を上げていくためには、業務を効率化し極力コストを削減し、従業員が付加価値を生む仕事に取り組んでいく必要があります。コストを削減するだけでは限度があるため、新しい事業を創出したり新市場に進出することが重要です。

業務のデジタル化を推進

まず、生産性を向上させるためには業務を効率化することが不可欠です。近年はさまざまなITツールも登場しているため、業務をデジタル化していくことでコストが削減できます。外部企業と行う業務であっても働き方改革を意識している企業が多い昨今は、不要な慣行にメスを入れることに同意する取引先も少なくないでしょう。

 

(例)

  • 印鑑→電子サインによる契約業務の電子化
  • 会議→Web会議システムを活用し移動交通費・会場費削減
  • クラウドシステムでデータ管理(Web給与明細、稟議書、経費精算等)
  • RPAの導入で事務業務を効率化(経理業務、採用業務等)
  • 営業マンの新規開拓→訪問ではなくオンライン商談システムを活用

 

特に総務、人事、経理部門などは煩雑な事務業務が非常に多く、RPAやクラウドシステムを上手に活用すれば書類作成、承認、書類の保存などにかかっていたコストが削減可能です。ただし、間接部門の業務の効率化は、単独の部署だけでは実施が難しいため、全社的な業務プロセスの見直しから着手する必要があります。

ワークスタイルの自由度を高める

インターネットが全国津々浦々に普及した日本では、スマートフォンやタブレットとインターネット環境さえあれば、どこでも仕事をすることが可能です。近年は、法人用のコワーキングスペース、駅などにはBOX型のワークスペースなど多様なサービスも登場しています。

 

ある程度の日数は顔を合わせたほうが望ましいと言えますが、フレックスタイム制、リモートワークを適切な加減で導入すれば、無駄な交通費や、移動コストが削減できます。働く側の自由度も増すため、従業員満足

度が向上することも期待できます。

 

また、働き方改革では労働時間の短縮のみに目がいきがちです。たしかに8時間かかっていた業務を6時間で完遂することが大きな成果ですが、時間短縮のみにフォーカスせず適切な休憩をとりながら成果を上げるように留意することも大切です。

米国の研究では、脳が創造的に動くためには「情報をまとめ、時間をつくり、クリエイティブになれる環境、脳にまかせてぼーとする時間が必要」ということが発表されています。週単位では休日のとり方、1日単位では休憩のとり方などを工夫して従業員の創造性を高めることを意識すると、働き方改革本来の目標を達成しやすくなるかもしれません。

 

(例)

  • リモートワーク、在宅ワーク導入
  • フレックスタイム制導入
  • 週休3日制導入

生産性の上がるオフィス設計

最近はフリーアドレス制の企業も増えています。例えば、日本マイクロソフトではWi-Fiやモバイル1式を持って、オフィスの好きな場所で仕事ができます。業務連絡はクラウド上ですべて行えるようになっています。社員用のカフェ、レストランも充実しており、そこで打ち合わせも可能です。オフィス移転とともにワークスタイルを変革した結果生産性は下がるどころか26%向上したと公表しています。

 

Googleの個性豊かなオフィスも有名です。頭脳労働に取り組む人にとって、仕事の合間にビリヤードや卓球ができるリラックスできる場があることは生産性向上につながります。オフィスと生産性の関係に目を向けることも大切です(もちろん研究職など職種によっては開放的ではないオフィスが適している場合もあります)。

新規マーケットの開拓

日本の人口は減少する一方です。消費者が減り続ければ企業は前年の売上げを維持することすら大変になります。比較的層の厚い高齢者マーケットに参入するあるいは海外マーケットに目を向けるなど、新しい市場を創造して売上げを伸ばしていく必要があります。

 

約1億2000万人の人口がさらに減りゆく日本よりも平均年齢がはるかに若く人口10億人を超えるインドや合計で9億人を超えるアセアン諸国などは、消費意欲も旺盛であり、マーケットとして期待できます。近年は世界の多くの国々にITインフラや物流網が整備され、アジア、東アジア、アフリカ諸国に拠点を設けることも昔より難しくないため、中小企業であっても新しい国の市場で成功できるチャンスは大きくなっています。

 

国内も同じようにグローバル化が進んでおり、新しい外国人マーケットができており消費を牽引しています。新しい市場に向けた新商品開発を行うこともできます。グローバルマーケットに限りませんが、何か新事業創出に目を向けていくことが大切です。

人材育成

 前述の経済産業省のデータでは、投資行動や経営の取組みと労働生産性の向上の関係の調査結果も出ています。グラフを見ると機械・設備投資、人材育成、業務効率化に取り組んだ企業の労働生産性が向上している傾向があります。

 

人件費は企業にとって大きなコストですが、付加価値を生み出す源泉でもあります。従業員の教育や職場環境に対して投資することはそれなりのリターンが期待できるでしょう。

 

労働生産性の向上と投資行動

 

 出典:中小企業の労働生産性 第1-3-15図 - 経済産業省

まとめ:

労働生産性を上げるためには、企業内にあるムダな業務やまったく合理的でないプロセスなどを効率化していく必要があります。新規事業分野や研究開発に投資することも重要です。

 

一般に明文化されたルールであれ職場の慣行であれ、決まっていることを変えるときには抵抗があるものです。新規事業開発についても社内の賛同が得られやすい会社ばかりではありません。

 

しかし、「働き方改革」という一つの潮流を利用することで、古いインフラを見直したり、組織を変革したり、新規事業に進出することコンセンサスが得やすい面もあります。

 

この機会に従業員一人ひとりに「生産性」についての意識を強くもってもらい、業務プロセスを見直し、テクノロジーを上手に活用し生産性を向上させていきましょう。