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少子高齢化により労働人口が減少していきているという状況は、日本の産業全体が直面している課題です。中でも建築業界はこれらの傾向が特に強く、業界が一丸となって何らかの工夫をしながら課題に立ち向かっていく必要があるでしょう。

 

ICTやIoTというキーワードが新聞やニュースでも取り上げ始めている通り、電子機器やネットワーク技術を活用することで、少ない人手でも業務を効率化している企業も続々と現れています。

 

この記事では現在の建築業界を取り巻く状況と課題、それに対して具体的な企業活動としてICT化にどう繋げていくべきかについて、いくつかの具体的な事例を挙げながら紹介します。ICT化を検討されている方はぜひこちらを参考にしてみてください。

ICT化とは

「ICT」とは、Information and Communication Technologyの略称で、IT技術の中でもコミュニケーション・情報共有技術という意味合いが強調された言葉で「ICT化」はそれらの技術を使用して仕事の効率化を図ることです。

 

日本では「IT」というワードが先に浸透しましたが、国際的には「IT」よりも「ICT」が一般的な表現として使用されており、日本においても総務省がIT政策大綱をICT政策大綱に変更しています。

 

厳密な使い分けをされることはあまりないので、ほとんど同義語だと考えて差し支えはないでしょう。

 

また、ICT化とは「作業を自動化することで作業員を減らす」ことだけを意味するのではなく、セキュリティ対策や安全管理、情報共有の効率化といったような間接部門の無駄を省くことも含まれます。

ICT化が求められている背景

ICT化というキーワードは建築・土木関連のみならず、教育や介護など幅広い業界で推進されてきています。

 

それぞれの業界が抱える課題は細かく見れば様々ありますが、大まかな背景としては通信技術や電子機器を活用することによって人手不足を改善しようというケースが多いです。

 

色々な課題に対してICTツールを積極的に取り入れていくことで、これまで提供していたサービスの質や量を維持し、人々の生活レベルの向上に繋げていけるのではという期待が集まっています。

 

建築業界においてもやはり労働人口の高齢化が深刻となっていますが、各企業がICT化を進めることで改善が見込めるかもしれません。

i-Constructionとの違い

i-Constructionとは、2016年から国土交通省が推し進めている取り組みの名称のことで、ICT化と密接した関係性のあるワードです。土木建築業界を日本社会の国土保全上、必要不可欠な存在と見据え、地域の守り手としての役割を維持するために「働き方改革を進めて生産性を向上させる」方針のことを指します。

 

具体的には、単純に土木建築業界に対して「ICT化を推進する」だけではなく、「コンクリート工の規格化による生産性向上」と「施工時期の平準化で作業員の負担を軽減する」という大きな三つの柱が中心になっている取り組みです。

 

i-Constructionトップランナー施策

 

(画像参照元:国土交通省 i-Constructionの推進

 

中でも、上記画像にも記載されている通りドローン(総称はUAV Unmanned Aerial Vehicle)を活用した3次元測量が奨励されています。

 

2017年3月に「UAVを用いた公共測量マニュアル」や「UAVを用いた公共測量マニュアルの手引き」が改正され、UAVによる測量を初めておこなう企業のサポートや、精度・信頼性を補完する体制を整えています。

 

国や自治体が費用を負担する工事を中心に活動し始めているため、今後は民間企業もICT化の動きが盛んになっていくでしょう。

まず建築業界の課題を把握する

民間企業、特にリソースに乏しい中小企業は、いきなりICT化を進めるのは難しいかもしれません。やはりドローンや高度な通信テクノロジーを備えた建機には、一定の費用がかかるものです。

 

しかし、かけた費用以上の利益が見込めるならば、企業としてはICT化を推進するべきでしょう。最終的には費用対効果が推進の決め手となります。

 

そこで、ここからは建築業界全体のボトルネックとなっている課題を解説した上で、その課題に対するICTツールを紹介していきます。ITやICTに関する知識や技術に抵抗がある方でも簡単に使えるツールを厳選しましたので、ぜひ参考にしてください。

 

ICT化に取り組む前に、まずは建築業界全体の課題を再認識しましょう。今回は主に3つの課題についてデータを元に説明します。

課題1:人手不足

他の業種と同じく、建築業界も高齢化による人手不足が深刻な状況となっています。

 

国土交通省が算出したデータによると、下記の通り2015年段階での建設業就労者はおよそ500万人となっており、ここ20年ほどで最も多かった1997年の685万人から30%ほど減少しています。

 

また、就労者の年齢分布も55歳以上が約33%を占めてしまっているのに対し、29歳以下は約10%となっていることからバランスの悪さも無視できない問題の一つだと言えるでしょう。


労働力不足時代への変化

(画像引用元:国土交通省「i-Constructionの推進」

 

同表に記載されている通り、全産業で見ても55歳以上人口が約29%、29歳以下は約16%であるため、健全な状態とは言えません。特に建築業界が厳しい状況に立たされていることがお分かりいただけると思います。

 

このような少子高齢化・人手不足が続いてしまうと技術伝承ができないため生産性は下がり、請け負える仕事の数や利益も減ってしまいかねません。そもそも、事業存続すら難しくなる企業も出てくるでしょう。人手不足の問題は属人的な業務が多い業界にとっては深刻な痛手となります。

課題2:3K職場のイメージが強い

上記のような建築業界の働き手が高齢化している原因の一つとして、若手の入職者が少ないことが挙げられますが、そこには建築業界がきつい・汚い・危険といういわゆる「3K職場」であるというイメージがあると考えられます。

 

2016年に新潟大学の学生に対しておこなわれたアンケートでは、275人中69人が建設業に対して「3K」イメージを持っていることが明らかになっています。


学生の建設業に対するイメージ調査

(画像引用元:学生の建設業に対するイメージ調査

 

建設現場での事故・災害の防止や熱中症への対策はもちろんのこと、いかにうまく電子機器や通信技術を活用して「効率的・清潔・安全」な職場環境を作っていくかが今後の建築業界の大きなテーマとなるでしょう。

課題3:生産性が向上していない

この20年ほどでIT技術が発展し、それに伴って製造・営業・管理・経理など様々な分野の働き方が大きく変わり、効率化を果たしてきたのはご存知の通りだと思います。

 

しかし、建築業界において働き方や職場環境が大きく改善されたという実感を持っている方は少ないのではないでしょうか。

 

その原因の一つとして、「建設業界を構成している大半は資本金1,000万円以下の中小企業である」ということがあり、新規技術を生かした設備に投資するだけの資金がないということが考えられます。


規模別許可業者数の推移

(画像引用元:日本建設業連合会

 

また、下請け・孫請け、あるいはその先まで仕事が流れていく建築業界独特の縦割りの分業構造が依然根強いために、自社の考えや判断のみで仕事のやり方を変更しにくいという点もポイントです。

 

古くからの働き方が現在にも引き継がれており、業界全体を苦しめている状況であることが推測されます。

ICT化すべきポイント

上記の3つの課題に対してどのようにICT技術を取り入れていくべきか、について紹介します。

1.情報の共有・管理

社内や部署内の情報共有や、データの編集・管理は最も手軽なICT化するべきポイントの一つです。

 

個々の作業自体は数秒単位でおこなえるものであっても、それに関わる準備時間や付属するコストが積み重なっていくことを考えると、徹底してICT化することで大きく効率をあげることもできます。

 

特に台帳や図面を紙媒体で管理している場合は、電子データに変更することでインク代や紙のコストの削減が可能です。

 

さらに勤怠情報がパソコンによる手入力で対応している場合は、スマートフォンアプリを導入できれば手間の削減に繋げられます。このように手間を減らして一人当たりの生産性をあげることが、生産性向上・人手不足解消の一手となるのです。

2.安全・健康管理

作業員の身の安全や体調不良は、本人が気をつけていても避けられない場合があります。周りの作業員が注意したとしても、人間である以上は限界があります。

 

国土交通省 北陸地方整備局が平成27年9月に発表した資料によると、建設業での死亡者数割合(ピンクの折れ線)が40%〜30%の間に留まってほとんど減少していないことがわかります。つまり、安全面について従来とは違ったアプローチを取ることが必須だということです。


全国の建設死亡者と建設投資の推移

(画像参照元:国土交通省 北陸地方整備局

 

こういった状況もICT化すべきポイントの一つです。

 

もちろんICT化したからといって完全に防げるわけではありませんが、カメラを配置するだけで警告音やアラートを表示してくれるシステムもあるため、危険度が高い現場であるなら優先的に取り組むべきだといえます。

3.人の移動

打ち合わせのための出張が頻繁にある企業や遠方の現場仕事を請け負う企業は、移動に関わるコストと時間を削減することが効率化の近道になります。

 

物理的な交通費を抑えられるというだけでなく、移動時間を他の業務に当てたり、作業員の残業代を減らすというメリットがあります。

 

また、会議をするためだけに事務所に出社するといったスタイルも見直すべきポイントです。直接顔を合わせて会話することは有意義なことですが、単なるルーティンとなってしまっているのであれば、無料通話アプリやテレビ会議を活用すると良いでしょう。

効果的なICTツール

ここからは上記のようなICT化するべきポイントに、効果が見込めるICTツールをご紹介していきます。

 

身近で使い慣れているものから、提供している企業のサポートがあるために特別な知識や技術が必要ないものをピックアップしましたので、ぜひご覧ください。

1.タブレット

スマートフォン感覚で使用できるものでありながら、大画面でタイピングもしやすく、タッチペンを用いることで直感的な操作ができるタブレットは優秀なICTツールです。

 

スマートフォンを使用していない年配の方であれば、取り入れた当初は抵抗があるかもしれませんが、メールチェックや簡単なアプリであればそこまで難しい作業が必要ないため、万人向けなツールだと言えます。

 

画面が大きいので図面や仕様書の読み込みにも向いており、建築業におけるICT化に最適です。

2.現場監視カメラシステム

建築現場は重機や高い場所での作業が必要となるため、作業中の事故や災害のリスクは避けられないものとなっています。また、天候の悪化や立地環境次第では薄暗い場所の作業も必要になるケースもあるでしょう。

 

詳しくは後ほどICT化の成功事例としてご紹介しますが、カメラを置いておくだけで人の目によるチェックよりも信頼性のある映像認識システムが展開されています。

 

こちらを導入することで現場作業の安全管理の精度は上がり、生産性の向上にも繋がると言えるでしょう。

3.テレビ会議・映像配信システム

映像をリアルタイムで遠隔地に繋げるテレビ会議システムは、簡単でありながらも建築業界にぴったりの機能を備えています。

 

この際のポイントは、単純に映像と音声を繋ぐだけのテレビ会議システムを利用するのではなく、高画質で画像や映像を共有できたり、現場の状況をウェアラブルカメラで伝えられたりといった機能が付属しているサービスを選ぶことも有効です。

 

接続先と細かな情報共有が必要な建築業界に適したものでないと、結局話を詰めるのに出張がになったりするリスクがあるので気をつけておきましょう。

ICT化に取り組む企業の事例

同じ業界の企業では似たような不満や悩みを抱えていることも多いため、ICT化を進めていく上で同業他社の動きや成功事例を参考にすることはとても重要です。

 

ここでは、建築現場をICT化することで安全性の向上および、作業員の業務の効率化に成功した例をご紹介します。

現場監視サポートシステムで監視員の負担を軽減した飛島建設

飛島建設

(画像引用元:飛島建設

 

飛島建設」は2017年より、沖電気工業が開発したカメラを用いて現場監視で信頼性の高く、監視員の負担を軽減できるシステムを導入しています。

 

国土交通省の「建設工事における事故と安全対策について」によると、建設業における労働災害発生要因は「機械などの転倒、下敷き、接触、衝突等」が15.1%、「工具等の取り扱い」が14.5%と3割ほどが重機の移動、取り替えの段階で事故が多発していることがわかります。


建設工事における事故と安全対策について

(画像引用元:建設工事における事故と安全対策について

 

そのため重機の周りにバリケードを設置し、さらに安全監視員を配置して危険エリアへの立ち入りを禁止していましたがそれでも死角が存在していために、複数のカメラで顔認識、物体認識、動体認識をおこなう画像センシング技術を用いて人と重機を識別するシステムを導入。

 

人と重機が近付くと自動でアラート通知され、またそれぞれの行動パターンデータを蓄積することで事故が起きる確率が高い状況を浮き彫りにし、安全監視を強化しています。

 

もし自動運転をおこなう重機を導入するタイミングにおいても継続して活用でき、さらに比較的身近な課題である「社員や作業員の安全」といったテーマに関わる分野なので、理想的なICT化の第一歩と言えるでしょう。

北野建設株式会社:Web会議システムで移動コストを大幅に削減


北野建設株式会社

(画像引用元:北野建設株式会社

 

東京と長野に本社を構える「北野建設株式会社」は高品質・高付加価値なものづくりを追求し、地域社会と共に発展する東証一部上場の中堅総合建設会社です。

 

業務効率化や出張コストの削減を目的としてWeb会議システムを導入。実際の利用頻度は月70回、時間にして80時間以上となり、社内で頻繁に活用するインフラツールとなりました。

 

 長野本社、東京本社と支店、営業所の間で施工図を用いた遠隔会議が可能となったことにより、移動の手間や時間を削減することに成功したのです。

まとめ

人や資金といったリソースをどこまで割けるかは各企業や部門により異なりますが、まずは情報共有の効率化、物理的なトラブル対策、社内教育の簡略化の何れかの方向性でICT化を検討されてみてはいかがでしょうか。

 

小さいところからでも無駄を省いていくことで作業員の職場環境が少しずつ向上し、生産性の向上や若手入職者の増加といった建設業界が抱える課題に対処していけるかもしれません。