快適な労働環境を提供すると、従業員は集中して業務に就けるようになり、企業全体の生産性向上が期待できます。そのため、従業員はもちろん企業にも大きななメリットをもたらします。株式会社学情の調査によると、働き方改革に取り組んでいる企業が78.2%と、数多くの企業が労働環境改善を含め働きやすい環境を作り出そうとしています。
その一方、「労働環境の向上のための具体的な方法がわからない」という企業もあるのではないでしょうか。そもそも労働環境とは何か、自社にどのような問題があるのかが分からなければ、改善のしようがありません。
そこでこの記事では、日本における労働環境の問題点について解説したうえで、改善のための具体策を紹介します。
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労働環境とは
労働環境とは、職場における労働者を取り巻くさまざまな要素を指す言葉です。厚生労働省では、快適な職場環境の形成に注意すべき要素として次のようなものをあげています。
- 空気環境:粉じん、臭気、有害物質 など
- 温熱条件:気温、湿度、紫外線 など
- 視環境:採光、照明、光源の性質 など
- 音環境:騒音、超音波 など
- 作業空間等:作業空間、通路、衛生施設 など
出典:事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針|厚生労働省
労働安全衛生法には事業者の責務として「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と定められており、違反した場合は内容に応じて罰則が科されます。従業員によって安全で衛生的な環境は最低限必要なものです。
ただし、さらなる生産性向上や環境改善を進めるのであれば、最低限必要なものだけではなく業務内容に合ったオフィス環境整えることも必要になるでしょう。そのほか従業員が働きやすい環境を整えるためには、人間関係や仕事の負荷、仕事の自由度・裁量権も労働環境など、精神的な労働環境を整えることも重要です。
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労働環境の改善が仕事に与える影響
労働環境を改善すると企業にとって多くの影響を与えます。ここでは、どのような影響が起こるのか実際の取り組み事例とあわせて解説します。
生産性の向上
生産性とは、モノを作り出すときに時間や労働量、労働者数をどれだけ効率的に使われたかを表すものです。生産性が高ければ高いほど少ないコストで多くのものを生み出せるようになります。労働環境を整え従業員が働きやすく業務に集中できるようになると、短時間で生産できる量が向上することが期待できるでしょう。
岡山市に本社を置くオフィス機器販売会社株式会社ワークスマイルラボでは2015年から働き方改革をスタートし、2019年には時間当たりの生産性270%アップを達成しました。
生産性向上のカギとなったのが「テレワーク」と「KPIボード」の導入です。オフィス壁面に2台の大型液晶モニターを設置し、1台では自宅でテレワーク中の社員とのコミュニケーションを行いました。
もう1台のモニターにはKPIボードを映し、会社の業績や個人の業務進捗状況などを見える化することで、生産性を高める意識を全社員で共有しています。こうした取り組みは残業時間削減にも繋がり、2017年には前年比41.3%の年間残業時間削減に成功しました。
参考:事業の構造転換を進める中で改革を進展(株式会社WORK SMILE LABO)|厚生労働省 働き方改革特設サイト
従業員の健康と安全
労働環境が整い、適切な環境で健康的に働ければ、従業員は心身ともに健康でいられます。従業員にが健康に問題があると、健康保険の負担や傷病休暇中の人材確保など企業に負担がかかることもあるでしょう。健康的な従業員が増えれば、こういったコスト削減にも繋がります。デスクワークやテレワークが多い企業では、従業員が運動ができるような取り組みをすることもおすすめです。
石川県の電気機械メーカーライオンパワー株式会社では、従業員の健康面への配慮として、誰でも自由に使えるように食堂の一角にランニングマシンや筋トレマシンを設置しています。また、定期的にヨガやエアロビクスなどのインストラクターを招いての健康増進活動を継続しており、2018年に「いしかわ健康宣言企業」に認定されました。
さらに、健康管理への取り組みとして残業時間削減に向けて「ポイント制」と「多能工化」を導入しています。結果として、2014~2019年にかけて月平均残業時間は半数に減少、年次有給休暇の取得日数は約6日から約10日へ増加となりました。
参考:ポイント制導入、多能工化で残業時間を削減(ライオンパワー株式会社)|厚生労働省 働き方改革特設サイト
従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業へ寄せる信頼や愛着、貢献意欲を表す言葉です。従業員エンゲージメントは優秀な人材の定着に影響します。愛着がある企業には長く勤めたいと考えるからです。高めることで従業員の定着率が上がり、経験豊富な人材を確保できるうえ、採用コストの削減になるでしょう。
従業員エンゲージメント向上のためには企業理念の定着など様々な施策が必要ですが、労働環境を良くすることも必要です。従業員目線に立ち、労働環境を整えていけば、おのずと働きやすく愛着が湧くような企業になれるでしょう。
採用力の向上
労働環境が整っている企業は就職活動中の人にとって魅力的です。株式会社揚羽による、「企業選びで重視する項目」ランキングでは、1位「成長が見込めるビジネスを行っている」、2位「共感できる理念やビジョンがある」、3位「仕事と生活のバランスが優れている」でした。
労働環境を整え、生産性が向上している企業やワークライフバランスが整っている企業には、「働きたい」と考える人が多くなるでしょう。結果として良い人材が集まり採用力が向上することが期待できます。
日本企業の労働環境の問題点
労働環境改善に着手する前に、自社にどのような問題があるのかを把握する必要があります。ここでは、日本企業にありがちな労働環境の問題点について解説します。
長時間労働
OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた15~64歳の生活時間の国際比較データによると、仕事や学業など有償労働時間の平均は男性317分・女性218分となっています。最も長いのは日本男性の452分でした。家事や育児などの無償労働時間を加えた総労働時間では、最も長いのが日本女性の496分、次いでスウェーデン女性495分、日本男性493分という結果です。
さらにOECD諸国と比較した場合、日本の労働時間には次のような特徴があることが分かりました。
- 男性の有償労働時間が極端に長い
- 無償労働が女性に偏っている
- 男女とも有償・無償をあわせた総労働時間が長い
出典:
Balancing paid work, unpaid work and leisure|OECD
生活時間の国際比較|内閣府
長時間労働は肉体的にも精神的にも負担がかかります。十分な休息をとれなければ疲労が蓄積し、業務のパフォーマンスも低下するでしょう。仕事中にも集中力が低下し、ふとしたことから重大な事故を引き起こす可能性もあるため、重く考えるべき問題と言えます。
過剰なストレス
業務上の過剰なストレスは心身に大きなダメージを与えます。ストレスから精神障害を発病したとする労災請求件数は年々増加傾向にあり、2021(令和3)年度には2,346 件でした。要因として特に多かったのが次の3つです。
- 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた:125 件
- 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった:71 件
- 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした:66 件
出典:令和4年版 過労死等防止対策白書|厚生労働省
誰かが不調により長期休業となった場合、他の従業員が穴埋めをしなくてはなりません。仕事量などによっては大きな負担となり、新たに体調を崩す従業員が現れるといった負のループに陥る可能性があります。
働き方の多様性の欠如
日本では正社員として働くのが主流であり、非正規雇用の労働者の処遇は低い傾向が見られます。2020年4月からは同一労働同一賃金が施行されていますが、2021年に行われた派遣元事業所へのアンケート調査では、施行後の賃金と派遣料金について約半数が「変わらなかった」と回答しています。
出典:派遣労働者の同一労働同一賃金ルール施行状況とコロナ禍における就業状況に関する調査|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
正社員を希望しながらも、育児や介護などの事情により非正規雇用を選ぶケースは少なくありません。個人の事情に配慮する柔軟な働き方の選択肢が不十分であることは、日本における労働環境の問題点の一つといえるでしょう。
ハラスメントやいじめ
前述の労災請求件数で、ストレスからの精神障害発病の要因として最も多かったのがパワーハラスメント(パワハラ)でした。厚生労働省では、パワーハラスメントについて「優越的な関係に基づいて、業務の適正な範囲を超えて身体的、若しくは精神的な苦痛を与えること」と定義しています。
同じ対応でも人によって受け止め方が異なるため、どこからが問題になるのか判断が難しいところですが、受けた側の心身の健康に影響することは明らかです。そのため、ハラスメントやいじめに対する防止策を講じることはもちろん、問題が発覚したときに迅速かつ適切な処置をとれる職場を目指す必要があります。
高齢化による技能不足
日本は少子高齢化が問題となっています。出生率はどんどん低下するなか人口割合の多い団塊世代が75歳を超える年になり、生産人口が大幅に低下することが懸念されています。高齢化がビジネスに及ぼす影響として、技能の伝承が滞るという点があります。
特に製造業では、若手に技術が伝わらないまま高齢の熟練技術者が大量に退職してしまうと、企業存続の危機にまで陥るでしょう。IT技術を駆使し技能を見える化するなど、業務の属人化が起こらないようにしなければなりません。
労働環境を改善する方法
ここからは、実際に労働環境改善に取り組む際に押さえておきたい5つのポイントについて解説します。
コミュニケーションの改善
テレワークが増えた現在、社内コミュニケーションが減少したという企業は多いのではないでしょうか。社内でコミュニケーションを取ることは、業務に関する情報を共有し円滑に仕事を進めるために必須です。気軽にコミュニケーションが取れる職場であれば、業務で分からないことをすぐに聞ける状態ですし、ちょっとした悩みも相談しやすくなります。
オフィスにこのような雰囲気があれば従業員はストレスや悩みを抱えにくく、働きやすいと感じられるでしょう。部下からの話を聞いたり相談に乗ったりするだけではなく、定期的に上司から部下へのフィードバックを行い、モチベーションを高めることも大切です。
労働条件の見直し
従業員がワークライフバランスを取りやすくするためには、フレックスタイム制度やテレワークなどの柔軟な働き方を導入を導入する方法があります。こういった柔軟な働き方は個人の事情に配慮できるようになり、労働環境向上に繋がります。
ノー残業デーやリフレッシュ休暇などを取り入れると、長時間労働の防止にも効果的です。労働条件を見直すことによって従業員が働きやすいと感じられれば、従業員のモチベーションアップや離職率の低下も期待できます。
オフィス環境の整備
身体への負担が少ないオフィス家具(机・椅子)、快適な空調や照明を揃えると、心身ともに業務中のストレスが軽減します。働きやすい環境では就業時間内に集中して業務にあたれるようになるため、作業効率も高まるでしょう。
オフィス環境を整えるためには、業務内容に合った場所を提供することも大切です。集中したいときやWeb会議を行うときには個人ブース、休憩したいときにはほっとひと息つけるリフレッシュスペースなど、目的別の場所があると良いでしょう。オンオフのメリハリがつき、より効率が上がることが期待できます。
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従業員にとって、自分の能力を最大限に活かせる職場は労働環境が良いと言えます。従業員の能力向上すると、会社全体の発展にも繋がるでしょう。そのためには、資格取得の資金を援助する、定期的に研修会を開催するといったスキルアップ支援が必要です。
スキルアップ支援を効果的に行うためには、雇用形態や社会人経験などに応じた適切な方法を選びましょう。国は従業員のスキルアップを支援する事業者に対して、さまざまな助成金制度を設けています。制度によって内容や要件などが異なるので、詳しくは厚生労働省のWebサイトにて確認してください。
「セクハラやパワハラなどのハラスメントはしてはいけない」ということ自体は理解している従業員がほとんどでしょう。しかし、具体的にどのような行為がハラスメントにあたるのかが分かっておらず、自覚が無いままハラスメント行為を行ってしまう人もいるかもしれません。
ハラスメント行為がある職場は心身ともに大きなストレスになるため、労働環境が整っているとは言えません。企業でしっかりとハラスメントに対するポリシーを策定し、具体的にどのような行為を禁止するのか従業員にしっかりと周知しましょう。
2020(令和2)年6月、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法の改正により、職場におけるハラスメント防止に必要な措置を講じることが事業主に義務付けられました。
具体的にはハラスメントに対するポリシーの策定、ガイドラインや相談窓口の整備、監視の強化などです。ハラスメントに対するポリシー策定は法律でも義務付けられています。軽く考えず、慎重かつ適切な対応をすることが求められます。
労働環境の向上とは、従業員が働きやすいようにさまざまな面から環境を整えることです。労働環境を整えるためには、オフィスを安全で集中できる場所にするほか、従業員が精神的に疲弊しないような配慮や、業務に対して前向きになれる施策なども必要でしょう。
労働環境を整えることは、従業員の心身の健康に繋がるほか、生産性向上など企業にとっても恩恵があります。従業員が働きやすい企業は魅力があるため、優秀な人材確保にも繋がります。自社の課題を洗い出し、必要な施策を試してみてください。