中小企業向け!働き方改革関連法案で対応すべき8つの項目わかりやすく解説
言葉としての「働き方改革」はすでに浸透してきた現在ですが、実際に働き方に関する法律も変わることはご存知でしょうか。2019年4月から働き方改革に関連する法案が順次施行され、残業時間に上限が設けられる、有給休暇の取得が義務化されるなど働く人にも本格的に影響が出てきます。
そこで今回は、順次施行されている働き方改革関連法案(以下、関連法案)について解説。その上で、中小企業が早急に対応すべき項目について紹介していきます。
働き方改革が目指すものとしては、長時間労働を是正し働く人の健康を管理することや、柔軟な働き方を通じて育児や介護等の両立がしやすい環境を整えることなどが挙げられます。その変化を通じて、働く人や企業の労働生産性を向上し、最終的には国としての労働生産性を改善することが目的です。
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そもそも働き方改革関連法案とは?
働く人の環境を整備することは企業の役目とも言えますが、とはいっても呼びかけや周知だけでは、簡単に企業が変わるわけではありません。
そこで働き方改革を推し進めるためには、意識だけではなく仕組みそのものから変える必要があります。この仕組み部分に該当するのが、関連法案です。関連法案のなかには、時間外労働の上限規制や有給休暇取得の義務化、また同一労働・同一賃金の義務化などがあります。関連法案の中身については、後ほど詳しく解説していきます。
対象となる中小企業の定義とは?
関連法案の施行スケジュールは、大企業と中小企業によって異なります。例えば、前述した時間外労働の上限規制は、大企業は2019年4月からの導入が義務付けられていますが、中小企業は2020年4月から導入が義務化されます。関連法案における中小企業の定義は、資本金もしくは従業員の数が下記に該当する場合です。
業種 |
資本金・従業員の数 |
小売 |
5000万円以下もしくは50人以下 |
サービス |
5000万円以下もしくは100人以下 |
卸売 |
1億円以下もしくは100人以下 |
上記以外 |
3億円以下もしくは300人以下 |
こちらの調査にも記述されていますが、日本の全企業数に大して上記の条件を満たす企業は99.7%にものぼります。
中小企業の景況は緩やかな改善傾向にあると言われていますが、生産性の伸び悩みや、経営者の高齢化、人材不足などの構造的課題は進行していると言われています。
このような状況の中、既存企業は成長を目指し、事業や経営資源が円滑に次の世代に引き継がれる循環を作り上げないといけません。そのためにも、国が推進する関連法案を理解し、従業員の働きやすい環境を整備することは非常に大切でしょう。
では、中小企業に関係する関連法案と、その施行スケジュールを確認していきましょう。
関連記事:中小企業向け!6つの事例から見る「働きやすい職場づくり」への取り組み
2019年4月順次スタート! 関連法案の主要8項目を一挙に解説
関連法案については主に8つの項目から成り、それぞれの施行スケジュールは下記の通りとなります。
項目 |
大企業 |
中小企業 |
時間外労働の上限規制 |
2019年4月1日〜 |
2020年4月1日〜 |
年5日の有給休暇の時季指定付与 |
2019年4月1日〜 |
2019年4月1日〜 |
同一労働・同一賃金 |
2020年4月1日〜 |
2021年4月1日〜 |
産業医・産業保険機能の強化 |
2019年4月1日〜 |
2019年4月1日〜 |
3ヶ月のフレックスタイム制 |
2019年4月1日〜 |
2019年4月1日〜 |
労働時間の客観的把握 |
2019年4月1日〜 |
2019年4月1日〜 |
高度プロフェッショナル制度 |
2019年4月1日〜 |
2019年4月1日〜 |
勤務間インターバル制度の努力義務 |
2019年4月1日〜 |
2019年4月1日〜 |
以下では、各項目をより詳しく解説していきます。
関連法案項目1:「時間外労働の上限規制」とは?
働き方改革の1つの目的である長時間労働の是正において、関連法案では残業時間に明確な上限が設けられることになります。
これまで、労働基準法にもとづいて法定労働時間は「1日8時間、週40時間まで」と定められていました。そして法定労働時間を超えて働いてもらう、つまり時間外労働を行う場合は、事業主と労働者との間で36協定(労使協定)を結ぶ必要があります。
この36協定では時間外労働の上限は1ヶ月で45時間以内、1年で360時間以内と上限が定められてますが、これまでは上限を破っても行政指導が入る程度で罰則はありませんでした。
しかし2019年4月から施行される関連法案(中小企業は2020年4月から)では、前述した時間外労働の上限を超えた場合、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰則が課せられます。
また特別条項といって、臨時的に上限を超えて労働させる場合においても、月45時間を超えるのは年間6ヶ月までなど明確な規制が設けられることになります。つまり36協定を結ぶ際に特別条項を設定した場合でも、規定の時間を超えれば、罰則が課せられてしまうわけです。
時間外労働の上限規制により、今後は長時間労働による労働生産性の低下を防止し、過労死など健康に対するリスクを抑える効果が期待できると考えられています。
関連記事:【平成31年度版】中小企業の働き方改革を助ける「時間外労働等改善助成金」とは?
関連法案項目2:「年5日の有給休暇の時季指定義務」とは?
2019年4月から、年間最低5日間は有給休暇を取得させなければならない、時季指定義務が導入されます。
そもそも有給休暇とは、労働者の十分な休養やリフレッシュを目的とした法定休暇です。入社後6ヶ月、その後は1年ごとに定められた労働日数の出勤率が80%を超える労働者に、自動的に付与されます。労働者は規定の日数内であればどのタイミングでも有給休暇を自由に取得する権利があり、取得を申し出た場合、会社側は認めなければなりません。
しかし「言いづらい」等の理由から、日本では有給休暇の取得率が50%以下という現状がありました。エクスペディア・ジャパンが2018年12月10日に発表した有給休暇に関する国際調査においても、日本は世界の主要19ヶ国のなかで、取得率は最下位です。
こういった現状を踏まえ、これまで労働者からの申し出が主だった有給休暇に関して、使用者(労務担当者や人事担当者など)側が指定する時季指定義務が2019年4月からスタートします。労働者からの申し出、また時季指定義務を含めて、最低年5日間は有給休暇を取得させる義務が生じるわけです。
つまり年間の有給休暇が5日間に満たない労働者に対しては、使用者が「○月○日に休んでください」というように、取得日を指定してあげる必要があるのです。
関連法案項目3:「同一労働・同一賃金」とは?
同一労働・同一賃金とは、「同じ業務内容であれば雇用形態に関わらず、賃金等同じ待遇にしましょう」という制度です。正規雇者(正社員)と、契約社員や派遣社員などの非正規雇者との不合理な差をなくし、従業員が適正に評価されることでモチベーションを向上させる目的があります。
1980年代においては非正規雇者は正規雇用者の補助という役割だったため、業務内容が異なる分、待遇にも差がありました。しかし近年は、待遇は昔のままで非正規雇者の業務が増えているという現状があり、不満を募らせる労働者が度々クローズアップされる機会が増えてきました。
このような背景を踏まえて非正規雇用者の待遇を改善し、モチベーションの低下を防ぐために、国が導入の義務化を定めた制度が同一労働・同一賃金といえます。同制度においては、前提として雇用形態が違うからといって、正規雇用者と非正規雇用者の待遇に差をつけることはできません。また仮に正規雇用者と待遇差が存在する場合、非正規雇用者に対してはその理由を説明することが義務付けられています。
関連法案項目4:「産業医・産業保険機能の強化」とは?
2019年4月から、労働者の健康管理等の助言・アドバイスを行う産業医の活動が、より強化されます。
これまで、労働者50人以上の事業場(同一の場所にある事業が行われている場)では、衛生委員会(職場の安全・衛生を協議する場)と産業医の設置が義務づけられていました。今回の関連法案では、産業医が労働者の健康管理を適切に行うために、企業側は業務状況や労働時間などの必要な情報を、産業医に報告する義務が生じます。また労働者の健康を確保するために、産業医から受けた勧告について企業側は、衛生委員会に報告する義務も生じます。
産業医からのフィードバックをもとに衛生委員会で協議の場が持たれることによって、働く環境をより改善していこうという取り組みです。産業医・企業・衛生委員会が一体となって、労働者の健康を管理する仕組みが強化されるといえます。
関連法案項目5:「3ヶ月のフレックスタイム制」とは?
まずフレックスタイム制とは、コアタイムと呼ばれる時間帯以外であれば自由に出社・退社できる制度です。現行のフレックスタイム制は、基準となる期間(1ヶ月以内)における総労働時間を出勤日数で割ることで、1日の標準労働時間を定める必要がありました。しかし関連法案では、基準となる期間が1ヶ月以内から3ヶ月以内に延長されます。
つまり業務の忙しさや自分の都合に合わせて、3ヶ月間のなかで、総労働時間の割り振りを自由に調整できるようになりました。例えば基準となる期間を4月1日〜6月30日までの3ヶ月間とした場合、4月1日〜5月31日まで総労働時間近くまで働き、6月1日〜6月30日までの1ヶ月間は休暇に充てるといった働き方ができるわけです。
関連法案項目6:「労働時間の客観的把握」とは?
これまでも残業代等を適正に支払うために、タイムカードなどを利用して、労働者の労働時間を客観的に把握することは義務付けられていました。ただ全労働者が対象ではなく、管理監督者や裁量労働制適用者に関しては対象外でした。しかし客観的な把握が義務付けられていなかったために、過重な長時間労働を強いられるといった現状があったのです。
そこで2019年4月からはこれまで対象外だった管理監督者や裁量労働制適用者含め、全労働者の労働時間をタイムカードやICカード、パソコンの使用記録をもとに把握することが義務付けられます。
関連法案項目7:「高度プロフェッショナル制度」とは?
時間外労働の上限規制など、長時間労働を是正する取り組みを進めると同時に、今回の関連法案ではより柔軟な働き方も推進していきます。その1つが、高度プロフェッショナル制度です。
内容は、高度な専門知識を有する者に限り、時間外労働の上限規制や法定休日など労働時間の規制から外すというものです。金融商品の開発やコンサルタント、研究開発者など専門知識を有する業務を行い、なおかつ年収が1075万円以上の労働者に対して、本人の同意のもと適用されます。制度そのものの導入にあたっては、労使委員会で5分の4以上の賛成を得る必要があります。
企業にとっては残業代を気にする必要がなかったり、労務管理が楽になったりといったメリットがありますが、一方で過重労働にないやすい点には注意が必要です。
関連法案項目8:「勤務間インターバル制度の努力義務」とは?
関連法案においては、勤務間インターバル制度の導入についても企業の「努力義務」としています。
そもそも勤務間インターバルとは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの時間間隔のことです。この制度を導入すると、前日に残業した場合、その分翌日の始業時間を遅らせる必要が出てきます。
例えば11時間の勤務間インターバルを導入した場合、前日に24時まで仕事をしていれば翌日の始業は11時からとしなければなりません。EU諸国ではすでに、11時間の勤務間インターバルを導入することが義務付けられています。
導入によって労働者の十分な休息時間が確保できるのはもちろん、翌日に始業時間を遅らせる必要があることを加味して、前日に遅くまで働くことを控えるといった効果が期待できると考えられます。
中小企業が早急に対応すべき項目とは?
中小企業においては、大企業と比較するとお金や人手不足といった問題を抱えているのも確かです。しかし今後は、前述した関連法案の施行に加え、行政や司法からの監視・取り締まりも強化されます。つまり、違反や言い逃れができない状況になってくることが予想されるため、何もしないまま放置していては、さまざまなリスクにさらされることになります。
また国の監視のみならず近年のSNS社会においては、違法な部分が露呈してしまうと、たちまち一般の潜在労働者にも会社の評判が広まってしまいます。人材不足感が漂う中小企業においては、さらに人材の確保が困難になる可能性もあるわけです。
今回紹介した内容のなかでは、「時間外労働の上限規制」ならびに「年5日の有給休暇の時季指定義務」については、早急に取り組み必要があるといえます。もちろんただ、労働時間を短縮するだけでなく、平行して無駄な業務の見直しやIT導入による効率化等も行う必要が出てくるでしょう。
あわせて労働時間の管理を徹底するためにも、ICT技術を活用したタイムカードやクラウド型の勤怠管理ツール等の導入、貴重な人材が出産や介護などのライフステージの変化後も継続して働き流づけることのできるようなテレワークなどの必要性も間違いなく高まるでしょう。
関連法案への適応は助成金等の活用が鍵
一方で業務を効率化するためのツール等の導入や労働時間の削減については、資金・人材不足等の理由で、中小企業にとってはとくに負担が大きいことも事実です。
しかし国では、中小企業が行う働き方改革を支援するために、助成金等も準備しています。例えば時間外労働の削減に取り組む企業に対しては、その対策に要した費用の一部を助成する「時間外労働等改善助成金(時間外労働上限設定コース)」、「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」や、ITツールの導入を補助する「IT導入補助金2019」などを用意しています。
こういった助成金等の活用も、検討したいところです。今回の関連法案の施行を機に、これまでの経営・労務管理の考え方を見直し、社外に魅力ある会社としてアピールするためにも働く環境を今一度整備していきましょう。
働き方関連法案について
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