【平成31年度版】中小企業の働き方改革を助ける「時間外労働等改善助成金」とは?

長時間労働が原因と考えられる、過労死や過労自殺が深刻な社会問題となり、連日ニュースやオンラインメディアで情報が発信されこと、みなさんの記憶にも新しいかと思います。このような労働環境に起因する問題を受け、労働時間の管理や労働者の健康を守るために、国が様々な法律を設定し始めました。

その一例が、2018年7月に成立した「働き方改革関連法」です。その法令内容は一部を除き、2019年4月から適用され、徐々に労働環境と雇用環境改善のための施策が実行されていくことが決定しています。

大きな変革点は下記5点です。

  1. 労働時間の法制の見直し (長時間労働の禁止)
  2. 有給休暇の取得促進
  3. フレックスタイム制の積極的導入
  4. 高度プロフェッショナル制度の創設
  5. 労働時間のより適正な把握

これらに対応できなければ、企業は法令により罰則を受け、企業ブランドイメージを損なうことに繋がる可能性が高まるでしょう。企業としては中長期的な優秀な人材の採用にマイナスの影響を与えたり、既存の優秀な従業員の転職を後押ししてしまうようなことが起きてしまうかもしれません。

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「働き方改革」への先進的な取り組みを行う団体や企業では、テレワークを実現するシステムや制度が導入され、注目を集めています。このような条件が企業に対して法令で定められた今、この流れは今後もより一層加速していくことでしょう。とはいうものの、働き方改革を実行に移すには、総務/IT担当者、人事担当者、さらには経営企画などが戦略的に関わる必要があります。

人的リソースや資金力のある企業は本法令への対応を自社で実施できかもしれません。しかし、中堅や小規模企業は、大企業ほどリソースに余裕がないのが一般的です。しかし、何らかの対応をしなければ、企業としては社会的制裁を受けるという状況になっています。

ここでのポイントは、「資金があれば…」という点でしょう。では、中小企業はどのように「働き方改革」を進めればいいのでしょうか。このボトルネックの解消を後押ししてくれるのが「時間外労働等改善助成金」です。

働き方改革を後押しする「時間外労働等改善助成金」とは?

国が多くの企業が資金力に余裕がないことを考慮しながら、労働環境に関する問題を解決する後押として「労働時間の管理や労働者の健康を守る仕組み」を各企業がとれる様に資金を援助する制度を作りました。

それが「職場意識改善助成金(時間外労働上限設定コース)」を2018年に大幅に改定した「時間外労働等改善助成金」です。時間外労働等改善助成金では、労働基準法の36協定が非常に重要な意味を持ちます。

36協定は、休憩時間を除き1日8時間、週40時間を法定労働時間としています。そして、これを超えて労働させることは出来ません。これを超える場合には1カ月45時間、1年360時間という制限付きの届け出が必要です。

特別な事情によりこの上限を超えて、労働時間を延長するには、36協定に特別条項を付けて、労働者と勤務契約を締結しなおし、届け出を行うことが必要です。

しかし、限度時間を超える場合には、時間についての制限がないため、長時間労働につながっています。多くの場合、従業員側は労働条件が改訂された勤務所契約を受け入れ、雇用契約を結ぶことになります。

結果として、長時間労働の常態化という悪循環が起こり、過労死や過労自殺のような悲劇を誘発する理由のひとつになってしまうと考えられます。ここで、特別条項付き36協定内の残業時間上限をリソース不足などの様々な理由により「月80時間・年720時間超」としている中小企業が時間外労働等改善助成金の支給対象となります。

業種 A. 資本または出資額 B. 常時雇用する労働者
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下  300人以下

(中小企業の定義:参照元はこちら) 

この助成金は、通常の助成金と異なり、インセンティブの様な支給方法になり、働き方を改善するために用いることが許されています。

例えば、以下の場合 (時間外労働上限設定コース) に支給が行われます。

「月80時間・年720時間以下」を達成した場合に50万円支給
「月45~60時間」を達成した場合には100万円支給
「月45時間・年360時間以下」を達成した場合は150万円支給

助成金の使用用途は、残業時間削減の為の士業によるなどによる働き方に関するコンサルティング費用働き方の改善を後押しする労務管理機器の導入テレワーク用の通信機器の導入や更新などにともなう経費等にあてることが可能です。

中小企業にとって残業時間を下げる工夫をするモチベーションにもなりますし、残業時間を減らすためのシステムの導入・コンサルタントを受けるなどの費用にもできます。

つまり、資金力がなくとも、助成金を上手く利用することで、プロの手を借り、システマチックに残業時間を削減し、「働き方改革関連法」にも対応できるようになります。また、「時間外労働等改善助成金」を受けるに当たり、主に次の5種類のコース設定より成り立っています。

  1. 時間外労働上限設定コース
  2. 勤務間インターバル導入コース
  3. 職場意識改善コース
  4. 団体推進コース
  5. テレワークコース

企業の担当者は自社の課題を理解し、もっとも適切なコースを選んでいく方がよいでしょう。では、順に詳細を見ていきましょう。

時間外労働上限設定コース

これは先に説明した内容と同じものです。過労働時間に上限時間の設定を行った企業に対して助成金が支払われます。時間外労働上限設定コースの対象となる企業は以下に該当する場合です。

「時間外労働数が休日勤務を含めて月80時間、年間720時間を超える中小企業で、複数月か単月でも複数の労働者が締結した時間を超える過労働を行った場合」

上記に対応する企業が、次のような対応を取った場合に、対策にかかった費用の3/4を助成金として受け取れます。

  • 「月80時間・年720時間以下」を達成した場合に50万円支給
  • 「月45~60時間」を達成した場合には100万円支給
  • 「月45時間・年360時間以下」を達成した場合は150万円支給

これにプラスして、「週休2日制」を導入すると、支給額は更に加算されます。ただし、助成額の上限額合計は最大200万円です。

4週あたりを単位とした状態で、

  • 「休日日数が4日増:100万円」
  • 「休日日数が3日増:75万円」
  • 「休日日数が2日増:50万円」
  • 「休日日数が1日増:25万円」

※本法令は改定されることございます。最新の情報は詳しくご覧になられたい方はこちらをご参照下さい:時間外労働等助成金(時間外労働上限設定コース)

勤務間インターバル導入コース 

あまり聞き慣れない言葉ですが、勤務間インターバルとは勤務間に充分な休息を取るために設定されたものです。

勤務間インターバル導入コースの対象となる企業は以下に該当する場合です。

「新規に、勤務から翌日の勤務までのインターバルを「9時間以上」に設定した中小事業主」

例えば、所定労働時間が8~17時の職場で「午前3時」まで働いた社員がいた場合、この制度の要件である「9時間以上のインターバル」を満たすためには、翌日の出社時間は「午前12時から可、それ以前の出社は禁止」になります。もちろん出社が遅れたからと言って、本来の勤務時間である勤務開始の8時から~出社までの12時までの分の給料も変わらず支給しなくてはいけません。

対策にかかった費用の3/4を助成金として受け取れます。上限額は以下のとおりです。

  • 勤務間インターバル時間が9時間以上11時間未満の場合:上限40万円支給
  • 勤務間インターバル時間が11時間以上の場合:上限50万円支給

※本法令は改定されることございます。最新の情報は詳しくご覧になられたい方はこちらをご参照下さい:時間外労働等助成金(勤務間インターバル導入コース)

職場意識改善コース

これは、職場意識を変えていくための制度を推進するためのものです。年次有給休暇の取得を促進するもの、所定外労働の削減を進めるものなどが対象です。

職場意識改善コースの対象となる企業は以下に該当する場合です。

  • 有給休暇の年間平均取得日数が前年より4日以上増えた中小事業主
  • 月間における平均残業時間数が5時間以上削減できた中小事業主

達成した場合には、以下の様な助成を受けることができます。

有給休暇の取得促進・所定外労働の削減に取組に対し、

  • a. 費用の2分の1~4分の3が助成:上限100万円支給(※)
  • b. 助成額:費用の4分の3:上限50万円支給
となります。

※有給休暇の年間平均取得日数を12日以上増加させた場合:上限150万円支給

※本法令は改定されることございます。最新の情報は詳しくご覧になられたい方はこちらをご参照下さい:時間外労働等助成金(職場意識改善コース)

団体推進コース

団体推進コースは2018年に新設されたコースです。

この助成制度は他のコースとは少し異なります。傘下企業をもつ複数の事業主団体が対象となっています。つまり、参加企業を含め団体として、働き方改革を進めるために設定されたものです。

これは以下の企業が対象になります。

  • 傘下企業が3社以上で、その半分以上の企業が時間外労働の削減や賃金向上を目指した生産性向上に関する取り組みを行う中小事業主

達成した場合には、以下の様な助成を受けることができます。

  • 上限500万円でかかった費用を支給

傘下企業が10社以上の場合には、上限が1,000万円にまであがります。

※本法令は改定されることございます。最新の情報は詳しくご覧になられたい方はこちらをご参照下さい:時間外労働等助成金(団体推進コース)

テレワークコース

このコースはテレワークシステムの導入を推進するためのものです。

テレワークシステムは、在宅やサテライトオフィスでの業務が可能になるため、働き方の多様性を企業内で見直すきっかけとなり得ます。それによって、ライフステージの変化などにより短時間労働とせざるを得ない働く人、産休前後の女性の活躍を後押しすることにより、社内のリソースを最大限に活用できる様になります。このような取り組みは各人の労働負担を軽くし、最終的には労働時間削減に寄与します。

テレワークコースの対象となる企業は以下に該当する場合です。

  • 労災保険(労働者災害補償保険)に加入しており、業種ごとに定められた中小企業としての規模を示す資本金や労働者数の条件を満たす必要があり、新規での導入を試みる企業が対象です。

テレワークコースは他のコースと異なり、導入機器や保守サポート、クラウドサービスの導入などハード面で支給対象となる取組が多く含まれています。

また、助成金額は、支給対象となる取り組み内容を実施し、活動前の成果目標の達成状況に応じて支給金額が異なる点が他の助成金と異なります。

※本法令は改定されることございます。最新の情報は詳しくご覧になられたい方はこちらをご参照下さい:時間外労働等助成金(テレワークコース)

関連記事:働き方改革実現の第一歩!オススメのIT(ICT)ツールとは?

成果目標を達成するためには生産性向上が不可欠

いずれの助成金でも最終的な目的は労働生産性の向上を通し、非効率な労働時間を削減することが目的です。それを達成することで必要になる、各種経費をサポートする助成金と言えます。

時間外労働などの明確な改善目標がなくして、助成金の支給を受けることはできません。既に社会は、長時間働くのではなく、短時間で如何に高い成果を生み出すかが重要と考えられています。まずは、この考えを自社内に浸透させることも同時に大切なことと言えるかと思います。

コミュニケーションツールが生産性アップに寄与

生産性に大きな違いを与える要素の一つにコミュニケーションをあげることができるかと思います。コミュニケーションの善し悪し、正しい人に正しいタイミングで情報をもらえることによって仕事が早く片付いた、なんて経験は皆さんにあるかと思います。

また、コミュニケーションには、受け渡しの速度以外にもその質自体も大きな影響を与えます。簡単な指示伝達を3人で行った場合をその質が、20%程度の場合、0.2×0.2×0.2=0.008 (0.8%)ほどの情報が伝わり切りません。一方で、伝達率が90%も場合、0.9×0.9×0.9=0.729 (72.3%)と、伝わる情報に大きな違いが出ます。

コミュニケーションが悪いと、上記の様に情報の伝達すら大きな差が生まれます。そして、仕事は他人数で行うモノであり、コミュニケーション率が悪いと伝達率 (最終的には仕事の生産性)が大きく損なわれます。場所を選ばずに、正しく情報を共有し、正しく進度を共有するシステムがあれば、生産性がアップすることは間違いありません。

まとめ

社会的に労働時間等の労働環境の見直し・改善が進められています。これは全ての業界業種に共通することです。しかし、資金力のない中小企業は新しい試みやシステムの導入に二の足を踏んでしまいます。そのため、国が「時間外労働党改善助成金」を支給しています。この助成金をうまく活用し、働きやすい職場作りを促進しましょう。

働き方関連法案について

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橋本 憲和
著者情報橋本 憲和

Web編集・ライター。カトリック学校のサポート事務、ゲームメディアなどを経てブイキューブに入社し、事例やブログ記事の制作を担当。「テレワークの魅力をやさしく伝える」をテーマに、記事を作っています。コーヒーの香りがする本屋さんが好き。

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