厚生労働省は、働き方改革を推進しており2019年4月から時間外労働の上限規制の施行を行い、それに伴い企業においても本法令への対応が必須となりました。働き方改革はアベノミクスで叫ばれる「一億総活躍社会」実現の目玉とも言え、今後もその重要性は高まるばかりです。

 

では、実際に企業にいる私たちは働き方改革によりどのようなメリットおよびデメリットを受けることになるのでしょうか。従業員・企業の双方の視点から、そのメリットとデメリットを考えていきます。

そもそも働き方改革の目的とは?

国にとって働き方改革の最終的な目的は、労働生産性を向上させ日本経済の成長を促すことです。そのためには、企業における労働生産性を向上させ、効率的かつ効果的に企業自身を成長させなくてはいけません。それらを実現するために、働き方改革は働く環境の改善に焦点を当てています。

 

Productivity_in_Japan

 

(参照元:労働生産性の国際比較

 

ご覧の通り、日本の労働生産性はOECD加盟諸国のなかでも決して高くありません。年次別比較の推移を見ても変化の兆しはほとんどなく、今後日本の高齢化を考慮すると一刻も早い労働生産性の改善が必要です。

 

生産性の向上により企業収益が上昇すれば、増加した利益は働く人に給与などの形で分配されるのが一般的です。結果、懐の温まった個人の消費行動が促され、さらに多くのモノやサービスの需要が拡大し、企業収益の押し上げ流れを作ることが可能になります。

 

このように企業から個人、さらには個人から企業へとお金を循環させ、経済を成長させる手段として、働き方改革を進めていく必要があります。

 

企業の収益改善のため、労働生産性を向上させるには、働くひとりひとりが仕事に意欲的に取り組める環境へと整備するのはもちろん、日本社会の経済性を考えれば、仕事以外の家庭生活との両立から消費を促すことも考えていく必要があるのです。

働き方改革における従業員のメリットとデメリットとは

働き方改革関連法案は、労働生産性を改善することを目的としている故、仕事の環境や仕方などに様々な変化が必要となり、従業員側や企業側も同様に様々な変化を求められます。

 

では、その変化がもたらすメリットとデメリットはどこにあるのでしょうか。

 

従業員のメリット

国が行う働き方改革では、長時間労働の是正に焦点が当てられています。大企業では2019年4月から「時間外労働の上限規制」が導入されることとなります(中小企業では2020年4月から)。

 

これは原則として、時間外労働の上限を月45時間・年360時間にするというもの。前述した時間を超えて労働をさせる場合、所定の書類を労働基準監督署長に届け出る必要があります。

 

残業そのものが完全になくなるわけではありませんが、上限を定めることで長時間労働を是正するという、国の本気度が伝わってくる同制度。長時間労働を是正する動きは、過労死問題などにより話題にはなりつつも、結局のところ従業員自らが長時間働かないという選択肢を選ぶことは企業そのものが変わらない限り難しい状況にありました。

 

しかし今回のように上限規制を設けるということは、働く上での仕組みそのものを改善すること。仕組みが変わることで、長時間労働の是正は本格的に進んでいくとみられます。

 

このように実際的に長時間労働は是正される動きにあります。それを踏まえた上で、長時間労働がなくなるメリットについて考えてみると、従業員の方は容易に想像しやすいはずです。

 

働く時間が少なくなるわけですから、それ以外の時間が必然的に増えることになります。平日であれば家族と過ごす時間が増えるでしょうし、趣味に費やす時間やゆったりと風呂につかる時間、睡眠を取る時間なども増えることでしょう。

 

仕事というのはクライアントからの締め切りであったり、上司からの頼みであったりと、ある程度の制限が伴うこともあります。一方で仕事以外の時間は、こういった会社外部や内部の人からの制限はおそらく軽減するはずです。自分の考えのもと、自由に行動できる時間が増えることで心身の健康につながるのはもちろん、ストレスが軽減できるのは言うまでもありません。

 

また、労働時間の短縮以外にも2020年4月からは同一労働同一賃金(同じ業務内容であれば、雇用形態に関係なく同一の賃金を支払う制度)の導入が必須となるため、雇用形態による格差は是正されます。

 

さらに国の働き方改革では、新卒から定年まで同じ企業に勤め上げるという単線型のキャリアパスからの脱却も進めています。今後は自分の考えやライフステージにあったキャリアを、より柔軟に選べる環境へと整備されていくことでしょう。

 

従業員のデメリット

時間外労働に上限が設けられれば、限られた時間でこれまでの業務を終わらせる必要が出てきます。そうなれば必然と、業務をさらに効率化、もしくは単位時間当たりの生産性を高めることが求められます。

 

会社の仕組みはそのままに効率化させるとなると、スケジュール管理の徹底や無駄な作業の省略、また昼休み返上で働くなど、負担のかかる場面も出てくるはず。さらに残業手当等、労働時間の短縮によって、得られる給料が減少するなどの影響も考えられます。

 

全員に当てはまるわけではありませんが、リモートワークなどの柔軟な働き方が当たり前になれば、部下の管理も難しくなることが予想されます。部下の顔が見えないためにフォローが遅れたり、業務の進捗が遅れたりといった問題も考えられるでしょう。

結果として、企業によっては明確な職責と数値的なゴール設定を行う企業も現れ始め、メンバーシップ型の雇用スタイルからジョブ型に近い雇用スタイルが増えてくるかもしれません。

働き方改革における企業のメリットとデメリットとは

次に、企業側のメリットとデメリットについて考えていきます。

 

企業のメリット

長時間労働が是正されれば、従業員は短い時間のなかで成果を出すことが求められます。つまり、時間単位当たりの生産性の向上が期待できるはずです。

 

ダン・アリエリー著の「予想どおりに不合理」という本のなかで、大学において3つのレポートそれぞれの提出期限を、あらかじめ設定したクラス・生徒に設定させたクラス・まったく設定しなかった(学期末までに提出すればいつ出してもいい)クラスに分けて行った実験が紹介されています。その結果、一番成績がよかったクラスは、あらかじめ3つのレポートの提出期限が決められていたクラスだったといいます。

 

これを仕事に置き換えてみると、残業時間の上限規制がない状態というのは、ある意味で締め切りがない状態といえます。一方で、上限規制があるということは、その締め切り(時間)までに、業務を終わらせる必要が出てくるはずです(いわゆる、締め切り効果)。その結果、前述した本のなかで紹介された実験のように、生産性が高まる(成績がよくなる)可能性も考えられます。

 

もちろん労働時間が減少すれば、余分な残業手当等を支払う必要がなくなり、人件費等の削減につながるといったメリットもあります。

 

またリモートワークなどの柔軟な働き方は、先進的な取り組みを行う企業として、求職者へのアピールにもつながります。育児や介護との両立で、やむをえず仕事を辞めなければならない優秀な社員の離職防止にも活用できそうです。

 

そのほか単線型のキャリアパスからの脱却により、転職者の受け入れに積極的な企業の後押しも今後は加速するとみられ、必然的に人材の流動性の高まりも期待できます。新卒のみならず、中途採用においても優秀な人材を確保できる機会が増えるわけです。

 

正規・非正規雇用の不合理な処遇差の改善については、従業員側のメリットに思えますが、正当に評価された従業員のモチベーションが高まれば、事業への貢献度も向上することでしょう。

 

企業のデメリット

労働時間の短縮は、従業員の生産性を高める可能性がある一方で、未完の業務が発生する恐れもあります。多くの企業にとっての目的はあくまでも、事業を行い、利益を上げることだと思います。しかし労働時間の短縮により、本来であれば1週間で終わる業務が2週間、3週間とかかるようになれば、利益を得る機会を遅らせてしまう可能性も出てきます。

 

事業会社ならまだいいとして、受託会社にとってはどれだけ多くの案件を早期にこなすかが、利益に直接関係してきます。労働時間が短くなれば、回せる案件数も少なくなるため、その分の利益の減少が考えられるでしょう。

 

そのほか短時間でより生産性を高めるためには、RPAなど事務作業を効率化させるためのツールの導入も必須となります。そうなれば、ツールの導入費ややり方を覚えてもらうための勉強会など、相応のコストが発生。勤怠管理を徹底するために、別途ツールを導入する際にも考えられます。

 

ただこういった働き方改革にともなうコストを見据えて、国では新たに助成金等を充実させることも検討しています。例えば「時間外労働等改善助成金」は、労働時間の改善を図るために要したコストの一部を負担するというもの。こういった助成金等を利用しながら、働き方改革を進めていきましょう。

働き方改革と平行して業務効率化も実施

働き方改革によって、中長期的にみると従業員の生産性向上につながると考えられますが、一方で労働時間の短縮により業務の遂行が遅れれば、利益の低下につながる恐れもあります。

 

企業の担当者であれば、企業の利益の確保と売り上げの改善が従業員としての大事な職責です。働き方改革の根本的な趣旨である労働生産性の改善や業務を従来よりも効率化しつつ、労働時間の削減に務め、従業員、企業双方がWin-Winとなる形を取ることが大切になってくることでしょう。

働き方関連法案について

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