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ハイスキルなIT・Webエンジニアのための転職サービスを運営するファインディ株式会社(以下Findy)。同社の宇田川嵩史さんは今年の3月から1カ月にわたり、沖縄での短期リモートワークを実施しました。その目的は「花粉症からの避難」。

 

重度の花粉症患者である宇田川さん。会社を休まざるを得ないほど症状が悪化することもあり、見かねた代表が沖縄でのリモートワークを提案したのだとか。

 

花粉症からの避難を目的としたリモートワークという珍しい試み。果たしてパフォーマンスは上がったのでしょうか? また、実施にあたり、どのような準備や課題があったのでしょうか? 宇田川さんとその上司である大原和人さん、代表取締役の山田裕一朗さんにお話を伺いました。

花粉症に耐えかね社長に相談→「じゃあ沖縄行ってくれば?」

左から大原さん、宇田川さん左から大原さん、宇田川さん


まずは、実際にリモートワークを行った宇田川さんと、上司の大原さんにお話を伺いました。大原さんは直属の上司として、宇田川さんのマネジメントを行う立場です。

 

―― 最初に、宇田川さんの普段の業務内容と、沖縄での短期リモートワークに至った経緯を教えてください。

 

宇田川さん(以下、敬称略):職種はエンジニアですが、企画から開発まで全てに関わっています。リモートワークに至った理由は、花粉症ですね。

 

―― 花粉症、ですか?

宇田川:花粉症です。小学6年生くらいからずっと花粉症で、年々ひどくなっていきました。今年は特につらかったので、会社の飲み会で代表の山田に相談したら「じゃあ、(杉花粉が少ない)沖縄に行ってくれば?」って(笑)。最初は飲み会の席での冗談かと思ったんですけど、上司の大原も沖縄行きをOKしてくれたので、やってみようかなと。

 

大原さん(以下、敬称略):当時は明らかに体調が悪そうでしたからね。花粉症がひど過ぎて会社を休むこともあったくらい。そこまでつらいなら、行った方がいいと。仮にリモートワークにすることで生産性が下がったとしても、東京にいるよりはいいんじゃないかと思いました。

―― 実際、行ってみてどうでしたか? 症状は改善しましたか?

宇田川:当初こそ少し症状が残っていましたが、3日くらいたつと何ともなくなって、とても快適でした。それから、現地では「ギークハウス沖縄」というシェアハウス兼ワークスペースに滞在していたのですが、通勤時間がなくなったのもよかったです。睡眠時間もいつもより長くとれて、健康的な毎日でした。

ギークハウス沖縄

ギークハウス沖縄

 

―― 沖縄ということで、余暇も充実しそうですね。

宇田川:「ギークハウス沖縄」から海までは1時間くらいかかることもあって、実はあまり沖縄らしいことはしていません。そのぶん、周囲に飲み屋がたくさんあったので、週末は朝まで飲んだり、ギークハウスに集まるエンジニアたちと交流や勉強をしたり、そんな過ごし方でした。最近はやりのリゾートワークみたいな感じでは、全然なかったと思います。ただ、そういう環境だから仕事に集中できたのかもしれないですね。

ギークハウス沖縄でのリモートワーク 初日の様子

沖縄リモートワーク初日の様子

 

働いている姿が見えないから、「結果」で示すことが大事

―― では、沖縄滞在中、何か困ったことや不便なことはありませんでしたか? 当時のブログでは「寂しい」と漏らしたりもしていましたが。

宇田川:一人でやっていると、どうしても疎外感を感じてしまうことはありましたね。話しかけられないので個人で集中して取り組むタスクは捗りますが、やはり寂しくなってしまう(笑)。うちには元々フルタイムのリモートワーカーの社員もいるんですが、その方の気持ちがよく分かりました。

―― 例えば、どんな時に疎外感を感じましたか?

宇田川:業務中はパソコンのカメラを常時つなぎ、互いの状況が分かるようになっていたんですが、それでもオフィスでのちょっとした雑談とかには参加しづらかったです。カメラの向こうで盛り上がっているけど、なぜみんなが笑ってるのかが分からないとか、そういう時は寂しかったですね。他にデメリットとしては、ミーティングがやりづらかった。若干のタイムラグがあるので、発言するタイミングが難しかったです。

大原:確かに、ミーティングでの発言は減っていましたね。でも、気になったことといえばそれくらいで、特に大きな問題はなかったように思います。

―― 仕事のパフォーマンスが落ちることもなかったと。

大原:開発や仕様の作成のスピードなど、作業自体は普段と変わらなかった印象です。著しくパフォーマンスが低下するなどの問題があれば代表の山田に相談しようと思っていましたが、そうしたこともなかったので何も報告していませんし、山田からも特に聞かれませんでした。それくらい普段オフィスでやっている仕事量と同様に回っていたと思います。

宇田川:もし駄目だったらすぐに帰るみたいな話もあったので、成果を出さないといけないプレッシャーはありましたね。特に初日はめちゃくちゃ緊張感があって、いつもの10倍くらいタスクが進んだかもしれない(笑)。

―― 働いている姿が見えにくいだけに、結果で示さないといけない。そんな重圧もあったのでしょうか?

宇田川:そうですね。例えば、体調が悪い日でも会社にいれば何となく察してもらえるじゃないですか。「あいつ今日しんどそうだから、仕事進まなくても仕方ないな」って。でも、リモートだとそれが分かりづらい。パフォーマンスが悪くても、言い訳しづらいんですよ。だから余計に、結果はちゃんと残そうと気合が入っていたかもしれないですね。

大原:確かに、そこである程度の結果を残せる人でないと、マネジメントする立場としてはリモートワークを許容しづらいところはあります。それは能力の優劣ではなく、あくまでリモートワークに向いているか向いていないかの違い。会社にはFindyの事業をサポートしてくれる在宅でリモートワークをやられている副業・フリーランスの方もいますが、彼ら彼女らは熟練のエンジニアなので、もうこちらが何も言わなくてもいい感じに仕上げてくれる。だからこそ、リモートでもうまくいっているのだと思いますから。


沖縄リモートワーク について話す宇田川さん

実施前に自宅でトライアル

―― リモートワークにあたって、具体的にどんな準備をしましたか?

宇田川:まずはトライアルとして、自宅でリモートワークをやってみました。それで本当に業務に支障が出ないのか、チームのメンバーへの影響もそうですが、僕自身のパフォーマンスに影響が出ないか試してみようと。僕自身リモートワークは未経験でしたし、怠惰な性格なので会社以外で仕事ができるか不安でもありました。ただ、実際にやってみたら特に問題はなかったですね。

―― 連絡用のツールや環境なども、トライアル期間中にいろいろ試して決めたと。

宇田川:そうですね。業務開始の連絡やタスクの報告はSlackで行いました。Findyは副業のメンバーも多く、もともと個人のチャンネル(分報チャンネル)を持っていたので、普段からSlackで困ったことなどをシェアし合っていたんです。ですから、そこはスムーズでしたね。あとは先ほども話したように、パソコンのカメラで常時お互いの状況が分かるように設定しました。音も出しっぱなしで、リモートでも話しかけやすい環境を作るということは意識していました。

―― 逆に、カメラがあることで「監視」されているような息苦しさは感じませんでしたか?

宇田川:それはなかったですね。僕はディスプレイを斜めに置いていたので、そちらに視線を向けないとカメラが目に入らない。ですから普段は特別意識することなく、仕事に集中できました。あとは、慣れだと思います。確かに当初は誰かに見られているような緊張感もありましたが、数日経つと意外と誰もこちらをそこまで気にしていない、見ていないことが分かってくる。普段のオフィスにいるときも、別に誰かを常に凝視したりしないですよね。それと同じかなと。

大原:オフィスでは宇田川が普段座っている席にPCを置いていました。ですから、宇田川の席の前を通る時にちらっと様子を見るくらいでしたね。宇田川が言うように、カメラの位置は意外と重要なポイントかもしれません。

―― あとはリモートワークをする場所も大事ですよね。「ギークハウス沖縄」を選んだ理由は?

宇田川:沖縄にいる知り合いのエンジニアに教えてもらったんですが、机も個人用に貸してもらえるし、ディスプレイも持ち込んでいいということで、沖縄にいながらオフィスや自宅と変わらない環境を整えられるというのが大きかったですね。リモートワークに失敗した場合、すぐに東京に戻れるように、1週間単位での滞在も特別に許可していただきましたし、利用料も1カ月3万円くらいと安かった。沖縄への交通費、食費を含めても月10万円はかかっていないとおもいます。東京で暮らすより、全然リーズナブルでしたね。

会話が減るぶん、意識的に雑談をする

―― 大原さんは日頃から在宅副業・フリーランスのメンバーとも仕事をされるそうですが、「リモートワーカーをマネジメント」する難しさを感じることはありますか?

 

宇田川さんの上司、大原さん

 

大原:特に難しいとは思いません。先ほど話したように副業メンバーは信頼できる人ばかりなので、基本は週一でミーティングをして、開発は自由な時間にやってください、という感じです。

ただ、常に一緒にいないぶん、仕事以外の予定やスケジュールはなんとなく把握しておくようにしています。といっても、世間話として「昨日は何してたんですか?」や「週末、どうされるんですか?」と聞く程度ですけどね。副業って週末に仕事をすることが多いので、プライベートで多忙な時期はなかなか難しいんです。予定の詰まり具合によって誰に仕事を振るのか、どうさばくのかも変わるので、なんとなく事前に分かっておいた方がいいと思います。

宇田川:確かに、大原さんは僕が沖縄にいるときも、よく「昨日なにしてたの?」と聞いてくれていましたね。それも、管理されている感じではなくて、雑談という感じでコミュニケーションしてくれるので、すごいなと思いました。オフィスにいればランチの時に自然に話すような雑談を、あえて意識的にするというのはマネジメントする上で大事なポイントかもしれないですね。

談笑する宇田川さんと大原さん

リモートワークなら遠方の優秀な働き手を巻き込める

Findyでは今回の試み以前から、在宅などでのリモートワークを認めているといいます。その狙いやメリット、さらにはリモートワークの効果を得る上で注意すべきポイントについて、代表の山田さんにお話を伺いました。


ファインディ 代表 山田さん

代表の山田さん

 

―― 今回のケースに限らず、日頃から各々の社員の方がリモートワークを実施されているそうですね。

山田さん(以下、敬称略):リモートワークを行うかどうかは、基本的に各自に委ねています。例えば、今日はたまたま1名「偏頭痛が出たので家で働きます」と連絡が来て、リモートワークになりました。その時々の状況により、最もパフォーマンスを出せるやり方が重要だと思っていますので。

―― リモートワークがメインの社員さんもいるのでしょうか?

山田:はい。逗子で子育てをしながらフルタイムで働く社員がいます。育児で忙しく通勤の時間がもったいないので基本は自宅作業、週に1回だけ通勤してもらう形です。また、フルタイムの社員15名のほか、30名ほどのフリーランスの方たちとも仕事をしていて、中には関西在住の方もいます。彼ら彼女らはそもそもリモートワークですし、中には一度も会ったことがない人もいます。

―― リモートワークは、遠方の優秀な働き手を巻き込む手段としても有効ですよね。

山田: そうですね。今は働き方が細分化していて、安定した雇用より自由度を求める人や、自然環境を求めて地方に移住する優秀な働き手も一定数います。エンジニア領域でいうと、そういう人たちを巻き込んでプロダクト開発を加速させることが大事だったりしますので、「リモート禁止ではない」というのが1つの強みにはなるでしょう。海外のエンジニアも採用できますしね。

―― とはいえ、「花粉症リモートワーク」は大胆な試みでしたね。

山田:それでパフォーマンスが上がるならいいんじゃないかと。それに私自身が今年から花粉症になって、そのつらさが分かったので……。正直、今までは軽んじていたんですけど、なってみたらつらくてつらくて。自分も将来、花粉症リモートワークをやりたいと思います(笑)。

オフィスワークとリモートワークについて話す山田さん

オフィスワークにも良さはある。個々の状況に合わせ選べることが大事

―― 最後に、改めてリモートワークを導入するにあたって注意すべきポイントを教えていただけますか?

山田:オフィスワークだろうと、リモートワークだろうと、一番大事なのはより良いパフォーマンスを出すことです。リモートワークも万能ではないですし、オフィスに来て、対面で直接コミュニケーションをとった方がいい職種や場面もあります。リモートワークにするかオフィスワークにするかという二元論ではなく、各スタッフの仕事内容や適性、働き方に合わせてどちらか選べる、一つの手段として存在しているのがいいのではないでしょうか。

逗子でリモートワークしている社員も、もともとは出産を機にいったん仕事を離れ、復帰する際に働き方を模索するなかで現在のスタイルに行きつきました。毎日出社するのは難しいけど、週1回はみんなとオフィスで仕事をしたい。そういう個々の希望に合わせて柔軟に対応できるのが、いい会社なのかなと思いますね。

 

取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ)

写真:南方 篤

企画・編集:はてな編集部